医療数字のカラクリ

治療は最小限の薬にとどめ空腹時血糖に一喜一憂しない

 これまで厳しい血糖コントロールの治療とそうでない場合とでは、合併症にどんな違いが出るかを見てきました。今回は、そもそも厳しい血糖コントロールの治療、緩い治療とは何を指すのかを見てみましょう。

 UKPDS33(「英国前向き糖尿病研究33」)において、血糖コントロールの厳しい治療グループとは「薬による集中的な治療を行う群」です。空腹時血糖108㎎/dlを目標に、インスリンや飲み薬を追加するという治療方針が貫かれました。

 その比較対象となったのが血糖コントロールが緩い治療群。空腹時血糖が270㎎/dlを超えず、口が乾くとか、尿が多いといった自覚症状が出ない限りは、薬での治療を行いませんでした。

 現在の糖尿病の診断基準では、空腹時血糖で110㎎/dl未満が正常、126㎎/dl以上が糖尿病と診断されます。その意味では血糖コントロールを厳格にした群は、血糖を正常レベルまで引き下げる積極的な治療だったことがわかります。

 それに対して空腹時血糖270まで薬を使わないというのは、今の基準から考えればとんでもなくいい加減な治療ということになります。
 では、集中治療をしたグループでは具体的にどんな治療を行ったのでしょうか。12%が食事療法だけ、38%がインスリン治療、64%に飲み薬が使われました。

 一方、比較対象の緩い治療のグループでは、58%が食事療法のみ、16%にインスリン治療が行われ、35%に飲み薬の治療でした。

 これからもわかるように、血糖の正常化を目指す治療と、正常とは程遠い血糖をも許す治療とが比べられたわけです。その結果はどうだったのか。研究結果が示したのは、せいぜい100の合併症が88に減るくらいで、大きな差はなかったということなのです。

 つまりは、症状がなければ薬は使わず、食事療法だけにとどめる。血糖が正常に程遠くても、一喜一憂しない。

 これも研究結果のひとつの解釈ではないかと思っています。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。