米国の進化生物学者・グールドの「がんばれカミナリ竜」(早川書房)という本に「メジアン(中央値)はメッセージではない」という生存曲線についての興味深い記述があります。
グールドは40歳の時に腹膜中皮腫というがんに侵され、生存率の中央値は8カ月であると告げられました。
この場合、多くの人は「ああ、もう私は8カ月しか生きられないのだ」と絶望してしまうことでしょう。しかしグールドは、「よし、半分の人はもっと長く生きるんだな。私がその半分に入るチャンスはあるのだろうか」と考えます。そこで、文献を読み漁り、「若い患者」「早期発見されたかどうか」「最新の治療を受けているかどうか」などが、8カ月以上生きられるケースと関係していることを知り、自分がそこに含まれるかもという希望を持ちます。
また、生存曲線の向かって右の端っこは、生存率がゼロにならずに長く伸びていることも確認します。つまり、「中央値8カ月」というのは、8カ月を超えるどころか何年も生きる人がいることを知るのです。こうして生存曲線を正しく理解すれば、絶望する必要はないことに気づきました。
その後、がんから生き延びたグールドは、2度にわたって自分自身の訃報に接します。間違った記事を書いた人は、生存期間の中央値が8カ月のがんになって、よもや何年も生きていると思わなかったのかもしれません。
結局、グールドはがんを宣告された1982年の20年後に亡くなります。
このことは、生存期間の中央値というのが個人にとってはほとんど役に立たない状況を明確に示しています。「メジアンはメッセージではない」の一文は、すべてのがん患者に読んでほしいものです。
医療数字のカラクリ