末期がん患者が元気になる「メタストロン治療」の実力とは

1回の外来注射でOK、保健が効く
1回の外来注射でOK、保健が効く(C)日刊ゲンダイ

 素晴らしい治療効果が期待できるのに、新たな治療法に紛れて世間に知られていない。そんな治療法は少なくない。がんが全身の骨に転移した末期がん患者に大きな鎮痛効果を発揮する「メタストロン治療」もそのひとつだ。現在、都内で最多の治療実績を誇る、「JCHO東京新宿メディカルセンター」(東京・飯田橋)の黒崎弘正・放射線治療科部長に、そのメリットを聞いた。

「最大のメリットは外来で行える、効果が高い治療法である点です。放射性疼痛治療薬であるメタストロンを腕の静脈から注射すると、がんが骨転移しているところに放射性物質であるストロンチウム89が集まります。そこから、比較的弱い放射線であるベータ線が出ることで、痛みの原因となるがん細胞を殺す。それにより大きな鎮痛効果が得られるのです」

■1回の注射で痛みを抑え副作用もなし

 末期がん患者の70%以上は強い痛みを感じるといわれる。とくに大変なのは全身の骨にがんが転移している末期のがん患者だ。その中には、日々痛む骨が違うことが珍しくない。がんの疼痛治療というとモルヒネといった医療麻薬をイメージする人が多いが、骨の痛みは医療麻薬や非ステロイド性鎮痛剤では抑えられないケースがある。しかも、モルヒネだと眠気や悪心、便秘などの副作用が必ず出る。「メタストロン治療」は、1回の注射で全身の骨の痛みを抑えることができるだけでなく、副作用とも無縁だ。

「放射線の飛距離はわずか数ミリで、半減期も50日ほど。近接する健康的な臓器への被曝の可能性も低いのです」

 しかも、ベータ線ががん細胞にダメージを与え、腫瘍が縮小することさえあるという。実際、前立腺がんと診断された田中雄一さん(68歳=仮名)はこの治療法により、全身の痛みが消えて腫瘍の大きさが縮小したばかりでなく、これまで続けてきたモルヒネやフェンタニルパッチといった医療用麻薬を使う回数も減ったという。

「むろん、投与後しばらくして再び痛みが出るケースもあります。その場合は再投与することもできます」

 メタストロンは決して安い薬ではないが、保険が適用されるため、3割負担の人なら10万円の窓口負担となる。

 非ステロイド性鎮痛薬やモルヒネが効かなくなった患者でも効果が期待できるこの治療法はなぜ、これまで普及しなかったのか?

「メタストロンは1カ月以上の生存可能な骨転移があるがん患者が対象ということもありますが、治療の多くは放射線核医学という一般の人には馴染みのないところで行われており、病院によっては該当する診療科がないケースがあるからです」

 前立腺がん、乳がん、肺がんは患者数が多いだけでなく、骨転移しやすいがんであることが知られている。耐え難い痛みを抑えて、最後まで正気でいられる。「メタストロン治療」は知っておいて損のない治療法だ。

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