今回からは「人体実験」を「臨床試験」と呼ぶことにします。ここには「敗戦」を「終戦」と言い換えるような“目くらまし”という面があり、むしろ「人体実験」と呼んだほうがいいのではという気もします。しかし、それでは誰も実験に参加してくれなくなって、人間を対象とする医学研究そのものを困難にする可能性が高く、ここは「臨床試験」という言葉で手を打とうというところでしょう。
そうした言葉の言い換えで負の側面が覆い隠されないように、臨床試験にはさまざまな外的な規制が設けられています。その中に、臨床試験の倫理面に関する規制として、「ヘルシンキ宣言」と呼ばれる倫理規定があります。
この宣言は、「人間を対象とする医学研究の倫理的原則」という副題が付いています。
「人間を対象とする医学研究」の一部は「人体実験」つまり「臨床試験」です。
さらにこの宣言の冒頭には、「『私の患者の健康を私の第一の関心事とする』ことを医師に義務付け、また医の国際倫理綱領は、『医師は、医療の提供に際して、患者の最善の利益のために行動すべきである』と宣言している」と書かれています。
あまりに当たり前なことですが、このヘルシンキ宣言のスタートは、第2次世界大戦中にナチスドイツによって行われた人体実験の反省から出発しており、この当たり前の宣言から始める必要がありました。
この宣言は37項目からなりますが、日本医師会が日本語訳を提供しており、全文をネット経由でも手に入れることができます。A4で6ページほどの短いものですから、ぜひ全文を読んでみてください。
医療数字のカラクリ