道路沿い住人は要注意 騒音が引き起こす意外な健康障害

騒音は大気汚染に次ぐ深刻な環境汚染
騒音は大気汚染に次ぐ深刻な環境汚染(C)日刊ゲンダイ

 あなたが普段、気にしないように努めている騒音が知らぬ間にあなたの健康をむしばんでいるのをご存じだろうか? WHO(世界保健機関)は騒音公害は大気汚染に次ぐ、深刻な環境汚染だと言い、その問題点を指摘している。騒音はどんな健康被害を引き起こしているのだろうか?

■高血圧のリスクが3~9割もアップ

「騒音は苛立ちや不眠を引き起こし、酸化ストレスを増加させます。その結果、体中に慢性炎症が引き起こされ、交感神経が活性化して血圧も上昇するのです。そして血管内皮が傷つき、血液凝固が促進して脳梗塞や心筋梗塞のリスクを上げます。特に夜間の騒音は体に悪影響をもたらすといわれています」

 こう言うのは首都圏の大学医学部で循環器を専門としてきた元教授だ。

 WHOも住宅地の騒音の上限を55デシベルと定め、これを超えるものは健康に有害としている。ちなみに40デシベルは「深夜の市内、図書館など」、50デシベルは「静かな事務所」、60デシベルは「普通の会話」、70デシベルは「騒々しい街頭」というのが一般的騒音の基準だ。

 毎日平均60デシベルを超える交通騒音にさらされると、高血圧のリスクが3~9割も増加するという報告もある。スウェーデンのルンド大学の研究チームが2万8000人の住人アンケートでスウェーデン南部の都市の交通騒音を調べた結果だ。

 騒音は振動・悪臭と共に「感覚公害」のひとつに分類され、不快感や生活妨害といった感覚的な被害に限定されると考えられているが、近年の疫学研究により、航空機騒音や道路交通騒音などの交通騒音がさまざまな健康被害を生じることが明らかになっている。

 例えば、沖縄の嘉手納・普天間飛行場を対象に行った大規模調査では、「低出生体重児の出生率の上昇」「学童の長期記憶力の低下」「成人における心身症有病率の上昇」などが検出されている。

■脳機能に悪影響を与え認知症リスクも……

 騒音がもたらす健康被害はそれだけではない。今年1月、世界的な権威のある医学雑誌「ランセット」に衝撃的な論文が掲載された。幹線道路や高速道路など交通量が多く、騒音レベルが高い場所に住む人は認知症になるリスクが高まるというのだ。

 それによると、幹線道路から300メートル以上離れた場所に住んでいる人に比べて、101~200メートル以内では認知症の発症リスクが2%、50~100メートルは4%、50メートル未満だと7%も高くなったという。

 研究ではその理由として幹線道路沿いでは大気汚染が深刻なこと、気分良く体を動かせる公園などがなく身体活動が低下すること、それと並び騒音が影響していると分析している。騒音により睡眠が妨げられ、脳機能に悪影響を与えて認知機能を低下させるという。

 騒音は感染症や遺伝性疾患ほどではないにしろ、「難聴」にも関係している。その「難聴」は認知症の引き金のひとつであることがわかっている。2015年に厚労省が発表した「認知症施策推進総合戦略」のなかでも難聴は認知症の発症因子とされている。

 むろん、騒音による健康被害は交通騒音によるものだけでない。例えば、低周波音による健康被害もある。

「人間が聞き取れる音は20ヘルツ~2万ヘルツで、20ヘルツ以下の聞こえない音は低周波音と呼ばれています。これを発するのが、空調機器や冷蔵庫のコンプレッサーなどで、それによって引き起こされる健康被害もあるといわれています。特に高齢者には夜の低周波騒音が気になります。最近、低騒音型の家電製品が人気になっているのは、このためでしょう」(前出の元大学教授)

 こうした騒音リスクに糖尿病や運動不足などが重なれば、さまざまな病気の発症リスクはさらに高くなる。薬や運動も大切だが、健康を維持したいなら騒音対策にも気を配るべきだ。

関連記事