天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

納得いく治療を受けるために知っておきたい2つのポイント

順天堂大学医学部の天野篤教授
順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 近所のクリニックや医院を受診されている患者さんの中には、大学病院などの特定機能病院でセカンドオピニオンを受けたいと考えている人も少なくありません。本当に適切な治療が行われているのか不安がある場合、納得いく治療を受けたいと考えるのは当然といえるでしょう。

 そんな時、重要になるのが「診療情報提供書」です。一般的には紹介状と呼ばれるもので、いま診てもらっているクリニックの医師に、これまでの経過、診断、治療などを記載してもらう書類です。

 現在、大学病院などの特定機能病院は、診療情報提供書を持参せずに来院された初診の患者さんには、「選定療養費」を請求します。診療費用の他に、最低でも5400円を徴収することが義務になっています。しかし、特定機能病院側にとっては、診療情報提供書を持参していない患者さんはできるだけ避けたい事情があります。たとえば大学病院は、患者さんの紹介率が60%未満だと、特定機能病院の承認要件を取り消されてしまいます。一定以上の紹介率を維持するためには、診療情報提供書を用意していない患者さんよりも、持参している患者さんを増やさなければならないのです。

 さらに、特定機能病院は、診療情報提供書を持参している患者さんを拒否することができません。つまり、特定機能病院でセカンドオピニオンを受ける場合、診療情報提供書は、水戸のご老公でいうところの“印籠”といっていいでしょう。

 かかりつけのクリニックでの治療内容に不安があって、より高度な特定機能病院でセカンドオピニオンを受けることを考えている人は、早めに診療情報提供書を作成してもらってください。内容は、紹介医院の名前と簡単な経過、投薬の種類くらいで問題ありません。

 また、患者さんの中には、かかりつけの医師が“患者を取られる”形になるのではないかと遠慮して、セカンドオピニオンを受けづらいと考えているケースも少なくありません。しかし、これは大きな誤解です。

 患者さんを紹介された大学病院は、いずれ紹介した側のクリニックに患者さんを返さなければなりません。この逆紹介率が50%未満だと、特定機能病院の承認要件を取り消されてしまいます。納得いく治療を受けたいと考えている患者さんは、遠慮することなく診療情報提供書を作成してもらって、セカンドオピニオンを受けてください。

■医療連携があるかチェックを

 他院からの紹介といえば、最近、心臓専門クリニックから紹介されて来院される患者さんが目立ちます。近年は高度な手術を積極的に行う心臓専門クリニックが現れ、そうした施設を受診される患者さんも増えています。それに伴い、心臓専門クリニックは「医療安全」を気に掛けるようになってきたのです。

 心臓以外に持病がある患者さんの心臓手術を行った後、持病の方の管理が行き届かずに重篤な状態を招いたり、命を落とすようなことになれば、たとえ心臓専門クリニックでも言い訳はできません。そうしたトラブルを避けるため、心臓以外の臓器に問題がある患者さんは、その病気の専門医がいる施設に紹介する良心的な心臓専門クリニックが増えているのです。

 つい最近も、心臓専門クリニックから紹介されてきた患者さんの心臓手術を行いました。その患者さんは、尿管結石で腎盂腎炎があり、脳梗塞から脳出血を起こした既往もありました。いずれの持病もそれほど深刻な状態ではありませんでしたが、心臓以外の多臓器にトラブルを抱えている患者さんに対しては、心臓専門クリニックはうかつに手を出せないのです。

 心臓疾患以外に何か持病を抱えている患者さんが専門クリニックを受診される場合、そのクリニックが、信頼できる大学病院などと医療連携しているかどうかをしっかりチェックしましょう。連携がない場合、仮に紹介されたとしても、大学病院側から「満床だから」と断られるケースもありえます。

 自分の持病に対して、しかるべき大学病院と連携をとって対処してもらえるのかどうかを確認しておくことが大切です。

「診療情報提供書」と「医療連携」は、納得いく治療を受けるためにも知っておくべき知識といえます。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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