放置で10もの弊害が…「味覚障害」は独居老人ほど要注意

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 味覚障害に注目が集まるにつれ、「味覚外来」や「味覚異常外来」を掲げる医療機関が増えているが、味覚障害は何が問題なのか?

 味覚障害は「味が分からなくなる=食の楽しみが減る」といった単純な問題にとどまらない。「マイシティクリニック」(東京・新宿)理事長の平澤精一医師が指摘するのは、放置することによる弊害だ。

「大きく挙げて10の弊害があります」

 それは、「知覚障害(味覚・嗅覚の異常、視力低下、白内障)」「成長障害(低身長など)」「湿疹や皮膚炎、口内炎、脱毛、なりやすく治りにくい褥瘡」「貧血、食欲不振」「骨粗しょう症」「免疫力低下」「慢性肝疾患や肝硬変の悪化」「糖代謝異常」「情緒不安定、記憶力低下、うつ傾向」「性機能障害、不妊症、性ホルモンの減少」だ。

「味覚障害の多くには亜鉛不足が関係しており、味が分からなくなるのはその一症状。やがてはほかの症状も引き起こしかねない」(平澤医師)

 亜鉛不足の原因はさまざまだ。食品からの摂取不足もあれば、過敏性腸症候群やクローン病などによる吸収障害もある。糖尿病や慢性肝疾患、慢性腎障害などの疾患は亜鉛の排出増加を招く。高齢者では多剤併用の人も多いが、薬剤の長期服用も排出増加につながる。

 厄介なことに、味覚障害に気付きにくい。

「特に一人暮らしの人や、個食・孤食が日常的な人は、指摘してくれる人がいないので自覚しづらい」(平澤医師)

■知らないうちに高塩分食に

 そもそもこういった人は好みのものしか食べず、偏った食事から亜鉛不足になりやすい。

 そうでなくても、現代はインスタント・レトルト食品やファストフード主体の食生活が普通になっている上、食材そのものに含まれる亜鉛量も減っている。現代は亜鉛が摂取しにくい環境なのだ。「自分は大丈夫」と思わず、塩や砂糖をなめるなどして、「味が分かっているか」を一度はチェックした方がいい。

 味覚障害で来院する人はどういう症状を感じているのか? 兵庫医科大学耳鼻咽喉科・頭頚部外科には年間200~250人の初診患者が訪れる。同科の任智美医師によれば、症状はさまざまだ。

 たとえば「味がしない、薄い」「いつもと味が違う」「何も食べていないのに口の中が苦い」「甘味だけが分からない」「塩味がきつい」「塩味と酸味を間違える」「何を食べてもまずい」「口がネバネバする」「口の中にトゲがある」「口が乾く」など。

「味覚には問題がなく、嗅覚に異常がある人もいます。最近増えている心因性のものや、背景に全身疾患などが隠れている味覚異常もあります」

 嗅覚障害、心因性、全身疾患はそれに応じた治療も必要だが、一般的な味覚障害では、亜鉛内服療法が基本になる。

「唯一エビデンスを持つ治療です。亜鉛欠乏が検査で確認された場合に、亜鉛内服療法が保険適用になります」

 漢方薬を用いて体質改善を行うことも。便秘がひどく、亜鉛製剤だけでは4カ月服用しても味覚障害が改善されなかった患者が、亜鉛製剤に加えて便秘に効く漢方薬を服用したことで6カ月後には食欲が増進、8カ月後には「治った」と薬をやめられたケースもある。これは決して稀有なものではない。

関連記事