VIPと病院の怪しい舞台裏

VIP相手でも起こりうる大病院の誤診 患者の勝訴は至難の業

小林麻央さんは「あのとき」と後悔(本人のブログから)
小林麻央さんは「あのとき」と後悔(本人のブログから)

 乳がんで帰らぬ人となった小林麻央さん(享年34)がブログにこうつづったことがある。

「あのとき、もうひとつ病院に行けばよかった」「信じなければよかった」

 後悔の気持ちをつぶやきながら、病院への不信感がにじみ出ている。麻央さんは2014年に受けた人間ドックで胸に腫瘍が見つかり、精密検査のため全国的にも有名な都心の総合病院を受診。しかし、がんとはっきり診断してもらえず、対応が遅れた。その後、別の総合病院を経て、名門大学病院へ転院している。どれも一般病床だけでも500床を超える、政治家や芸能人、スポーツ選手ら多くのVIPが利用する大病院だ。

 麻央さんは、初診時の病院の対応を嘆き、一時は病院を誤診で訴えるのではないかというウワサまで出ていた。大腸がんで亡くなった俳優の今井雅之さん(享年54)も同じで、最初に見てもらった病院ではがんの発見が遅れたと恨み節だった。名の知れた病院だからといって“バッチリ”とは言えないようだ。

「医師個人の技量の差もあり、有名な病院だからといって必ずしも安心とは言い切れません。しかも、がんなどは100%発見できるものではなく、仮に誤診で病院や医師を訴えたとしても、なかなか原告側の勝訴とはなりません」(米山医院の米山公啓院長)

■ヤメ検や弁護士資格の医師が法務担当

 法務省によると、患者や遺族が病院や医師を訴える件数は800件前後ある(別表)。昨年の医事関係訴訟は789件。約半分の403件は和解しているが、判決までいたったのも269件あった。そのうち、原告勝訴は17・6%しかなく、年々減少している。

 2年前に大垣市民病院の医療事故を巡って大垣市が遺族と1500万円で和解した例はあったが、これは医師の連絡ミスで胃がんを放置していたヒューマンエラーがはっきりしていたケース。がんの見逃しや執刀ミスなどの立証は難しく、患者勝訴は至難の業だ。

 もちろん、病院側も訴訟リスクに備えて万全の態勢を整えている。ある有名病院は訴訟対策としてヤメ検を引き抜いているし、弁護士資格を持った医師が法務担当の責任者を務めている病院もある。

「さらに、病院や医師個人で賠償保険に加入しています」(米山院長)

 賠償保険は、開業医向けの「日本医師会医師賠償責任保険」や医療機関向けの「日本病院会病院賠償責任保険」などがあり、医師個人で加入できる保険もある。

 たとえば、日本病院会の保険(S20A型)の年間の保険料は一般病床1床当たり2万8847円(500床以上の病院)。1000以上の病床を抱える藤田保健衛生大学病院や東京女子医科大学病院なら、保険料だけで年間3000万円を優に超えるが、逆にそれさえ払っておけば医療ミスが起きても1事故につき2億円まで補償される。オプションで個人情報漏洩をカバーできる保険もある。

 患者は“大病院だから安心”“あの有名人も通っているから”という理由だけで病院を選んではいけない。

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