末期がんからの生還者たち

前立腺がん・大腸がん<4>同室患者のすすり泣きに「負けてはいけない!」と

吉田博行さん
吉田博行さん(C)日刊ゲンダイ

 独立行政法人国立病院機構「東京医療センター」(東京・目黒区)で、10時間以上に及ぶ「大腸がん(直腸)、ステージ3a」の手術を受けた吉田博行さん(当時63歳、東京・世田谷区在住)。その半年後の2015年10月に「腹膜播種」(肝臓など臓器を覆っている半透明の膜に種をまいたように散らばった細胞がん)が見つかった。

 胸にCVポート(皮下埋め込み型ポート=中心静脈カテーテル)を作り、抗がん剤治療(アバスチン)をスタートさせる。

「それから4カ月ほどたった翌年(16年)の2月になって、急に左足が腫れてきました。それも太い丸太のように膨れて驚いたのです」

 急いで精密検査を受診すると、「左下肢静脈血栓症」と診断された。抗がん剤による副作用で足に血栓ができていた。

「でも、医師からは『血栓が足の付け根にとどまってよかったですね』と言われました。10日間、入院加療しました」

 このときすでに血栓のひとつが肺に飛んでいた。4カ月ほどすると、風邪をひいたわけでもないのに重い咳が出てきた。38度の高熱も続く。再び精密検査を受けると、今度は「薬剤性間質性肺炎症」と診断された。肺炎は気管支などに起こるが、間質性肺炎は肺胞と毛細血管を取り巻く間質による組織に生じる病態だ。

 吉田さんは診察室からICU(集中治療室)に搬送される途中、担当医から「いずれ、気道を確保するために喉を切開することになります。3カ月ぐらい話せませんから、今のうちに奥さんとよく話しておいてください」と告げられた。

 ICUで一晩中マスクを装着して安静にしていると、カーテン越しにすすり泣くような女性の声が漏れてきた。

「重症患者の奥さんか娘さんでしょうか。いつまでも泣き続けている声を聞きながら、なぜか私は『病なんかに負けてはいけない!』と思ったのです」

 入院は32日間に及んだ。幸いにも、気管支を切開せずにマスクを介して換気を行う「NPPV」(非侵襲的陽圧換気療法)が行われ、吉田さんは救われた。

 7年前に「前立腺がん」の告知を受けて以来、吉田さんは「大腸がん」や副作用に付随する3つの大病とも闘ってきた。現在も毎日、10種類以上の医薬品を服用している。同僚や友人たちからは「吉田さんは強い!」とよく言われるが、返事はいつも決まっている。

「何があっても、生涯現役でいたいんです」

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