末期がんからの生還者たち

卵巣がん<1>「治療後の空虚感はがん患者に共通した苦悩でしょうか」

大塚美絵子さん
大塚美絵子さん(C)日刊ゲンダイ

 2012年7月、埼玉県さいたま市に住む大塚美絵子さん(当時51歳)は、3つの病院を回り、最後に「卵巣がんステージⅢC」と確定診断された。

 年間、10万人当たり14.3人(国立がん研究センター)といわれる「卵巣がん」の患者数は、40歳代から増加し、60代前半でピークを迎える。

 子宮の両脇にある楕円形の形をした卵巣は、女性らしい体をつくり、その維持を促す女性ホルモンが分泌される臓器だ。閉経まで成熟した卵子を放出する卵巣に発症する悪性の腫瘍が「卵巣がん」である。

 妊娠や出産の経験がない場合などが発症の要因ではないかとする研究論文があるが、まだハッキリしない。

 病期は、Ⅰ~Ⅳの4段階に分類され、大塚さんの場合は末期に近い「ステージⅢC」。リンパ節にも転移していたが、腹腔内にがんが飛び散り、広範囲に腹膜播種(卵巣がんによく見られる転移の一種)を起こしていた。

「5年生存率は、30%前後。手術などで治療に成功しても、再発の確率は医学の統計で2人に1人。告知を受けた年、私の友人に担当医が『残念ながら大塚さんに来年という年がないかもしれません』と言っていたそうです」

■今は仕事が支え

 700万円に近い年収を得ていた優良監査法人を退職し、手術など治療に専念すること約1年。その後、2年間、「人生を楽しみたい」とドイツなど、海外旅行を満喫した。   

 2年前の16年には、「社会参加のために、ビジネスに挑戦」と勇躍、「リンパレッツ」(東京・八重洲)という会社を立ち上げる。

 ドイツ旅行時に出合った、医療用ストッキング(特にリンパ浮腫用)に魅せられ、輸入業者の協力を得て、日本でも小売り販売を開始した。

 ビジネスはゆっくりと滑りだしたが、頭から「がん再発」の不安は消えることがない。しかし、昨年、ようやくがん治療の目安となる「5年生存」を乗り越えた。

 がん告知、会社退職、入院治療、治療費の捻出。抗がん剤の副作用では頭髪があらかた抜け落ち、それを隠すために、新たに買いそろえた帽子も10個を数えた。そして、自立を目指した会社の設立……。

「実を申しますと、がん治療が終わった後がつらかったですね。私は幸い治療後の経過が順調でしたので、日常の生活に向かう中、家族の期待にも応えたい、元通りの生活をしたいなどの思いがありました。しかし、十分な健康体ではありません。そこに孤立と孤独感が生まれます。今、私を支えているのは仕事ですが、何とも表現できないがん治療後の空虚感は、がん患者に共通した苦悩でしょうか」

 そう前置きし、大塚さんは6年間に及ぶ苦汁の体験を語り始めた。

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