皮膚を科学する

CDよりライブが感動するのは皮膚が“音を聞いている”から

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 好きなミュージシャンのコンサートはCDで聞くより、ライブで直に聞く方が何倍も感動するという人は多いだろう。それは、人は“音”を耳だけで感じ取っているわけではないから。桜美林大学リベラルアーツ学群の山口創教授(人間科学)が言う。

「人は空気の振動を音として耳でとらえますが、人が耳から聞くことのできる空気振動の周波数(可聴域)は20ヘルツから20キロヘルツくらいまで。それより高い音を『超音波』、低い音を『超低周波音』と呼び、耳で聞くことのできない可聴域外の周波数を人は皮膚で知覚しているのです」

 花火や和太鼓の音を聞いたとき、「腹に響く」ように感じるのもそのひとつ。耳がほとんど聞こえない高度難聴者が、耳たぶの後ろにある側頭骨の突起部に超音波を当てて、骨伝導で聞くことができるのも、そもそも皮膚が振動するからだ。最近では、可聴域より高い超音波が実際に聞こえている音を、より心地よく感じさせる働きがあることが分かってきているという。

「ところがCDやDVD、インターネット配信などのデジタルサウンドは、超音波がカットされているので物足りなさを感じるのです。昔のレコードなどのアナログサウンドには超音波が入っていて、音がマイルドで臨場感がありました。いまだレコードのファンが多いのはそのためです」

 超低周波音は、身近なものでは家電機器、飛行機やヘリコプター、ボイラー機器などから発生していて騒音として問題になることがあるが、体に音圧として感じるだけでなく、地面や床などを震わせてその振動が伝わって感じるものもある。音楽でいえば「ボーンコンダクション理論」だ。

「日本のロケット開発の父といわれる糸川英夫氏が唱えた理論です。音楽を演奏している人は、空気中を伝わってくる音波と、楽器を持つ手や抱えている体を通して直接振動として伝わり、それが骨を通して聴覚系に伝播される音の2つを聞いている。その楽器の振動は床板を伝わり、観客にも届きます。そして、聞く人に感動を与えるのは、音波ではなく、後者の音であるとしています」

 ちなみにイルカは170キロヘルツ、コウモリは100キロヘルツの音まで聞くことができ、多くの動物たちは超音波でエサを得たり、危険を察知して伝えたりする手段として駆使している。人の皮膚も、耳では聞こえない周波数の音を確実に知覚しているという。

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