中高生の1割が自傷経験…専門医に“親のNG行為”を聞いた

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 中高生を対象にした複数の調査で、およそ1割の子供が「リストカットなど自傷の経験あり」と答えている。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の松本俊彦部長に聞いた。

 10代の10人に1人がリストカットとは、想像以上の数ではないか。そして自傷の大半に、親は気づいていない。

 だからこそ、自傷を疑う傷痕を我が子の体に見つけた途端、パニック状態に陥ってしまう親が少なくない。

「『どうして!?』『私が駄目な親だから!』『あなたが死んだら、もう生きていけない!』といった過剰な反応は、自傷する子供を追い詰めます」

「騒ぐとつけあがる」と冷淡に振る舞ったり、見て見ぬふりをする親も同様だ。繰り返す自傷に「いい加減にしろ!」「今度やったら縁を切る!」「そんなに切りたいなら、ここで切りなよ!」など攻撃的・挑発的になる親も。いずれも絶対にやってはいけない。

「自傷を頭ごなしに否定しない。『死にたい』と言われたら、『それは苦しいね。何かあった?』と、困っていることを素直に聞いてみる。傷を見せられたら『よく教えてくれたね。ありがとう』と、傷を隠さなかったことを評価するのです」

 自傷がやめられないと告白されたら、それを口にできたことを肯定的に評価する。「YOU」を主語にして何かを言うと、相手は支配されているように感じるため、「私はこう思う」と伝える。

 自傷を「人の気を引く行為」と考えている人がいるが、大きな間違いだ。自傷は「生きるための行為」。「本気で死にたいと思って相談しなかった=73・9%」「自殺未遂をしたときに相談しなかった=51・1%」(日本財団自殺意識調査2016)といった結果にあるように、ひそかに行われている。

■「命を大切に」と説くのは逆効果

 自傷をする子供の共通点は「つらい時に助けを求められない。人を信用できない」。どうしようもなくつらいことがあった時、それを誰にも言えないから、つらい気持ちを意識の中で“切り離す”ために自傷を行う。自傷はリストカットがよく知られるが、「火のついたたばこを皮膚に押し当てる」「頭を壁に強く打ちつける」なども含まれる。

「自傷でストレス対処を繰り返していると、だんだん慣れが生じてきてストレスに脆弱になります。以前は自傷しなくても耐えられたことにも、自傷せざるを得なくなるのです」

 リストカットなどの自傷ではつらい気持ちを切り離すことができなくなり、つらい気持ちから解放される次の行動として、睡眠薬などの薬を過量に服用するようになる人もいる。過量服用では命が助かるケースがほとんどだが、目が覚めた時「自傷では対処できなくなっていたストレスが、昏睡状態で楽になった」と知り、“生きるため”に過量服薬を行うようになる可能性がある。

「自傷を否定せず、受け入れ、歩み寄り、自傷の背景にある『人への不信感』を取り除く。自傷を安心して話せる場をつくるのが、親としてまずできることです」

 自傷や自殺がいけないと説くのは、子供の孤独を深める結果になる。ただし、親だけですべてを抱え込もうとすると破綻がくる。子供の自傷について話せる人を周囲につくると同時に、地域の保健センター・保健所、精神保健福祉センター、子供家庭支援センターなどに相談を。自傷は必ずしも医療的な治療が必要ではないが、死のリスクが高まっていると感じたら精神科を受診すべきだ。

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