3月は自殺最多 独身の中高年男性は「4つのリスク」に注意

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 3月は1年間でもっとも自殺する人が多い。昨年こそ1913人と5月(2023人)、4月(1940人)より少なかったが、それまでの3年間はいずれも2000人以上が亡くなっておりトップ。目立つのは40~60代の男性だ。この世代の自殺の主な原因は経済問題や家庭問題などだが、孤独が原因の自殺も多い。2016年には孤独を直接の原因として171人が命を絶ち、その7割は男性だった。夫婦や親子不和などの家庭問題や、求職失敗などの喪失感などを加えれば孤独による自殺はもっと多いはず。これを避けるにはどうしたらいいのか? 独協医科大学埼玉医療センターこころの診療科の井原裕教授に聞いた。

 日本の年間自殺者数は1998年以来14年連続で3万人を超えてきたが、2016年には22年ぶりに2万2000人を切った。しかし、年間の交通事故死(3904人)を上回る状態は依然として続いており、北海道の美唄市に相当する人数が毎年自殺で亡くなっていることに変わりはない。

 目立つのは独身男性の自殺。男性の自殺者数は女性の2.2倍で、独身男性の自殺率は妻帯者の3倍近い。2016年の人口動態統計によると、45~69歳の自殺男性5079人のうち、妻帯者は2195人、未婚1581人、死別117人、離別1176人だった。

「2007年の国民意識調査によると、今までの人生で少なくとも1回以上本気で自殺を考えたことがある人は調査対象者の2割に達しています。しかし、実際に自殺願望を行動に移す人は多くはありません。自殺行動を起こすハードルが高いからです。例えば死に対する恐怖や自分を傷つけることへの罪悪感、痛みへの恐れ、将来への希望や期待、仕事への責任感や家族への配慮などです」

 逆にいえば、独身の中高年男性にとって3月は自殺のハードルが低くなりがちだということだ。

「自殺の危険因子は“自殺未遂歴”“うつ病などの精神疾患の既往症”“未婚・離婚・死別に対するサポート不足”“地位の失墜などの喪失体験”のほかに“強度の怒り”があります。他者への激しい怒りがあり、その抗議の意味を込めて自殺する場合もあります。中高年サラリーマンにとって3月は転勤や異動による将来の不安や、定年や役職定年などの地位の喪失感などが重なり、心が不安定になりがちです」

 とくに一日の大半を会社で過ごす仕事好きな独身男性は会社がすべてとなりがち。異動や転勤をキッカケに「自分の居場所がない」「誰も自分を必要としていない」などと思い、所属感が低くなり、「自分がいない方が周囲が幸せ」などと考えてしまう場合がある。

 自殺する人の大多数は自殺を実行する前に、睡眠障害、不安障害、うつ病、双極性障害などの精神障害に該当していたことが明らかになっている。

「WHOの調査では96%の人が該当し、そのなかで治療していた人は1~2割。自身が精神疾患を患っていると気づかない人も多いのです。一般的に精神疾患のある人は睡眠障害や狭窄的な思考を招きやすく、自殺リスクが高まります」

 実際、2003年の統計によると自殺が多いのは月曜日深夜0時台と早朝5時、6時台。多くの人は眠っている時間帯だ。睡眠障害が自殺リスクを20倍以上高めるとの見方もある。しかも、自殺する人の多くはアルコールの力を借りている。

「自殺を図る人の多くがアルコールにより酩酊状態にあることがわかっています。死や痛みや罪悪感のハードルを下げ、衝動性が自殺を後押しするからでしょう」

 ちなみに酒量が徐々に増加していく中高年は、本人も周囲も気づかないだけで、うつ病が隠れている場合がある。そうなると自殺リスクがさらに高まるので注意が必要だ。

■コミュニケーションの相手を見つける

 では、自殺から身を守るにはどうしたらいいのか?

「学生時代の友達や家族や親戚、ボランティアや趣味の仲間など会社以外の人と積極的に交流することです。この場合、淡泊な付き合いにとどめること。議論して人間関係が壊れないようにしましょう。夜しっかり眠れるように昼間に体を動かし、起床・就寝時刻を一定にすることも重要です」

 体が弱っても交通費がなくても、コミュニケーション相手を見つけられるネットは自殺防止には有効かもしれない。

「ただ、その匿名性故にトラブルも多い。ネットはリアルな人間関係に劣ることを承知の上で、うまく使うといいでしょう」

 米国の自殺名所とされるゴールデンゲートブリッジから飛び降りる男性には特徴があるという。

 最後の瞬間まで握りしめた携帯電話に何度となく目をやり、太平洋側でなく、にぎやかな街側に向かってダイブするのだそうだ。

 人はギリギリまで人を求める。話し相手がいれば生きられる。

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