天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

アレルギーを抱えている患者の手術は普段以上に注意が必要

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 近年、何らかのアレルギー性疾患を抱えている患者さんが増えています。花粉症、アトピー性皮膚炎、喘息、食物アレルギーなどのアレルギーがある患者さんを手術する際は、通常の場合よりもさらに細心の注意が必要になります。実際、手術中にアレルギー反応が起こってしまって大慌てするケースもあるのです。

 アレルギーは、体内にウイルスや細菌などの異物が入ってきたときに排除しようとする免疫反応が過剰になることで、体にとってマイナスになる症状を引き起こす状態です。反応に関わる抗体や出現にかかる時間などによって4つのタイプに分類されます。

 Ⅰ型は「即時型」とも言われ、アレルギーを起こす原因物質=アレルゲンが体内に入ってから短時間で症状が表れるタイプです。花粉症、アトピー性皮膚炎、喘息などがこのタイプで、食物アレルギーの多くが該当します。中でも、発症してから非常に短時間で全身症状が出るアナフィラキシーは、ショック状態に陥って血圧の低下や意識障害などを引き起こし、命に関わるケースもあります。

 Ⅱ型は「細胞障害型」とも呼ばれ、体内に侵入してきた抗原が細胞に付着することによって自分自身の体をアレルゲンとして反応し、細胞を壊してしまうタイプです。型の合わない血液を輸血して起こる溶血性貧血などが該当します。

 Ⅲ型は「免疫複合型」と言われ、アレルゲンと抗体が結合した免疫複合体が組織を傷害します。血清病やリウマチに関係しています。

 Ⅳ型は「遅延型」で症状が表れるまでに1~2日ほどかかるタイプです。抗体は関係なく抗原に対してリンパ球などの細胞が反応して起こります。ツベルクリン反応や金属アレルギーなどがそれに当たります。

■術中、急激に血圧が下がるケースも

 手術では、「遅延型」を除く3つが問題になるケースが多いといえます。アレルギーを抱えている患者さんの体内で、セロトニンやヒスタミンといった血管を拡張させるタイプの「ケミカルメディエーター」(細胞間の情報伝達に使われる物質でアレルギーを促進させる)が放出されるような仕組みが出来上がっていると、アレルギー反応を起こしたときに血圧が急激に下がります。そのため、血液の循環の維持ができなくなったり、呼吸困難になるなどして全身状態の維持に苦労するのです。

 もちろん、手術中は血圧や呼吸の状態を常に確認していますし、アレルギーの症状が起こった場合は麻酔科医をはじめとしたスタッフが迅速に対処します。ただ、予定外の処置が必要になるため、手術をスムーズに行うことが難しくなるといえます。

 医療の現場で比較的多く遭遇するのは「食物アレルギー」と「薬品アレルギー」です。食物アレルギーの中では、卵や乳製品といったタンパク質系の食品に対するアレルギーの患者さんが多い印象です。薬品は麻酔薬や抗生物質でアレルギーを起こす場合が多く見られます。

 いずれも、患者さん本人が自覚していて、事前に医療者側にきちんと伝えておけば、現場は術中にアレルギー反応を起こさないように尽力します。アレルギーの原因になるような薬や機材などを使わないで済むような方策を考えたり、同じ効果のある別タイプの薬に置き換えることも行います。

 ただ、患者さん本人が自分にアレルギーがあることを自覚していない場合は厄介です。術中にアレルギー反応が起これば、スタッフがバタバタと大慌てする事態を招きます。それを避けるため、手術を控えている患者さんには、複数のスタッフが「アレルギーがあるかどうか」について何度もしつこく確認します。本人はよくわかっていないが、ひょっとしたら……という場合は、アレルギーの検査をしてはっきりさせるケースもあります。だいたい20人に1人くらいの割合で術前にアレルギー検査を実施しています。それだけ、アレルギーがある患者さんの手術は注意しなければならないのです。

 次回、アレルギーがある患者さんの手術についてさらに詳しくお話しします。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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