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【がんとテロメア】短くなった場所ががん化する

相田順子副部長
相田順子副部長(提供写真)
相田順子副部長 東京都健康長寿医療センター研究所・老年病理学研究チーム(東京都・板橋区)

 人のDNA(染色体)の末端部分には、「TTAGGG」と6個の塩基のセットが何千個も続いており、この部分を「テロメア」という。細胞分裂(DNAの複製)のたびにテロメアは短くなり、ある一定以上短くなると細胞は分裂できなくなる。テロメアは「老化の回数券」と呼ばれ、細胞レベルでの老化要因のひとつだ。

「高齢者がん研究」分野でテロメアの研究を専門とする相田順子副部長が言う。

「テロメアの役割は、染色体を保護し、染色体同士が融合することを防いでいます。それが短くなり細胞老化の状態になると、染色体の安定性が崩れて異常が起きやすくなり、がんなどの病気の原因になる。高齢者のがんの発生には『テロメア短縮』が関係していることが多いのです」

 加齢によって発生するがんは、特にテロメアが短くなっている部位に発生するという。相田副部長は2010年、口腔上皮内がんの分子病理学的な研究で、世界で初めてがん周囲の組織とテロメアの関係を論文発表している。

 また、糖尿病患者では膵臓のインスリンを作るβ細胞のテロメアが短いことが分かっているという。

 がん細胞はテロメアが短いのに、なぜ増殖を続けられるのか。体内の細胞でも「幹細胞」や「生殖細胞」は限りなく分裂を繰り返すことができる。これは「テロメラーゼ」という酵素の働きで、テロメアの長さを維持しているからだ。しかし、普通の正常細胞はテロメラーゼ活性を持っていない。

■膵液の逆流も影響

 もともと正常細胞だったがん細胞は、どのようにテロメラーゼ活性を獲得するのか。

「細胞はテロメアが短くなると、不安定になり異常な染色体ができないように分裂を止めます。P53などのがん抑制遺伝子に変異が起きることで細胞分裂が再開し、テロメアはさらに短くなり変異が起きやすくなる。がん細胞はその不安定になった細胞に、何らかの遺伝子変異が起きることでテロメラーゼが活性化し、がん化したと考えられます。その遺伝子が何なのか特定はされていません」

 逆に言えば、テロメラーゼ活性を抑制する物質が、有効ながん治療薬になる可能性もあるが、他の組織幹細胞や生殖細胞に影響しないかが課題になる。

 また、正常細胞のテロメアを伸ばす薬(細胞の老化防止)が開発されても、逆にがん発生の原因になる危険性があるという。

 いま同研究チームが精力的に進めているひとつは、テロメアを短くしてしまう生活や環境のリスク因子の追求だ。一般的にがんのリスクとされる「過度の飲酒」「紫外線」「アスベスト」「たばこ」「膵液の逆流」などが影響した細胞は、明らかにテロメアが短くなることが確認されているという。

「欧米では『瞑想』や『ヨガ』などでテロメアを伸ばす研究が進んでいますが、日本ではまだあまり研究されていません。『鍼灸』『日本食』などでテロメアを伸ばす効果があるか、研究を進めたいと考えています」

 また、高齢化で問題となっている「認知症」「フレイル(衰弱)」などの老年疾患とテロメアの関係も研究テーマという。

▽神奈川県出身。1985年神奈川歯科大学卒後、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修了(歯学博士・歯科医師)。旧東京都多摩老人医療センター、旧東京都老人総合研究所を経て、2014年から現職。〈所属学会〉日本病理学会、日本老年医学会、日本癌学会など。

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