人生100年時代を支える注目医療

【線維筋痛症】投薬治療で75%は痛みが半分以下に改善

岡寛院長
岡寛院長(提供写真)
岡寛院長 東京リウマチ・ペインクリニック 東京・八重洲

 昨年、米国の人気女性歌手レディー・ガガ(32)が闘病中であることを明かし、「線維筋痛症(FM)」という病気に関心が高まっている。原因不明の痛みが全身に生じる病気で、国内の推定患者は200万人。関節リウマチの患者数の約3倍にもなるが、適切な治療を受けられている人は1割ほどしかいない。どうしてなのか。国内のFM治療の第一人者である岡寛院長(写真)が言う。

「FMは首や肩など全身の関節周辺に痛みが出るので、患者さんはまず整形外科を受診します。しかし、レントゲンや採血、MRIなどで検査しても異常がない。それでメンタルな病気として押し込まれてしまうのです。9割の半数は精神科へ通い、半数は医療に不信感をいだき鍼灸やサプリなどの代替医療に通っています」

 同院に通院する患者は約1200人いるが、うちFMを含む慢性疼痛の患者は約700人。FM患者がネット情報などを見て、同院を受診するまでに平均4~5カ所の医療施設を転々としてたどり着くという。

 FMは、体の広範囲にわたる痛みが3カ月以上続き、体にある痛みを感じやすい18カ所の圧痛点を指で押し、うち11カ所以上に痛みがあれば診断される。

■医師は患者と痛みの度合いを共有すること

 明確な原因は分かっていないが、脳の痛みを感じる神経が過剰に働いたり、痛みを抑制する神経の働きが低下したりする「脳の機能異常」と考えられている。

「患者さんは誰にも痛みを理解してもらえず、途方に暮れて来院されます。治療を始めるに当たり、最も大切なのは医師が患者さんの痛みを肯定し、患者さんと医師が痛みの度合いを共有することです。それには電気刺激を用いて痛みの程度を数値化する『ペインビジョン』という装置を使って測定することで客観的な評価ができます」

 しかし、ペインビジョンは高価なため、導入している医療機関は限られる。

 それに保険診療で認められているFMの治療薬は、「プレガバリン」と「デュロキセチン」の2剤しかない。岡院長が2年前に同院を開業したのも、薬の種類や用量など保険診療内の治療だけでは効果に限界があるからだ。そのため保険診療と自由診療の両方で治療を行っている。

「多くの医師はプレガバリンを第1選択としていますが、眠気やふらつきなどの副作用があり、半数以上の患者さんは合いません。私の場合は、最初に『ノイロトロピン』(保険適用外)の点滴をして、効けば内服薬を処方する。第2選択はデュロキセチンで、プレガバリンはその後です」

 他にも漢方薬、ストレッチや水中歩行などの運動療法、トリガーポイント注射(局所麻酔)、スーパーライザー(近赤外線治療)、磁気治療などの治療法も患者に合わせて組み合わせる。磁気治療器は岡院長が企業と提携して発展させたもので、6月から日米で臨床試験(治験)を始める予定という。

「治療で薬が完全に不要になる患者さんは年に1人くらいしかいません。しかし、ペインビジョンの判定では、治療で75%以上の患者さんは痛みの度合いが半分以下に改善します。仕事ができなかった患者さんの中には、就労復帰している人もいます」

 治療法の引き出しが多ければその分、治療効果は高くなる。多くの患者を診ているから、多くの引き出しが必要という。

▽1986年聖マリアンナ医科大学卒。東京大学医学部物療内科(医学博士)、聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター、東京医科大学八王子医療センター教授などを経て、2016年開院。東京医科大学兼任教授。〈所属学会〉日本リウマチ学会、日本線維筋痛症学会、日本ペインクリニック学会など。

関連記事