クスリと正しく付き合う

抗がん剤や抗生剤の中には“治らない難聴”を招くものがある

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 これまでは薬を中止すれば治る副作用を紹介してきました。できる限り早急に発見して医師または薬剤師に報告することが大切で、そのために重要となる初期症状についても取り上げました。

 しかし、副作用の中には不可逆的、つまり治らないものもあります。とはいえ、重篤化を防ぐためには早期発見が必要ですし、さらに「予見」も欠かせません。薬を使う前に、副作用が起こる可能性が高い患者さんを予測しておいたり、副作用が出やすい投与量の限界を見極めておくといった予防策です。

 不可逆的な副作用としては、「薬剤性難聴」があげられます。薬によって起きる難聴で、耳が聞こえなくなる、または聞き取りづらくなります。「解熱剤」(サリチル酸剤)や「ループ利尿剤」という種類の薬によって起こる場合は可逆性難聴ですが、「抗がん剤」(シスプラチンなどの白金製剤)や「抗生剤」(アミノグリコシド系抗菌薬)では不可逆性難聴が起こる可能性があるのです。

■データの蓄積によって予見できる

 五感を一つでも失うとQOL(生活の質)が大幅に低下します。それがずっと続く不可逆性難聴は、より重篤な副作用といっていいでしょう。シスプラチンは、小児、高齢者、腎機能低下者に用いることで副作用が起きやすくなります。また、ある一定量を超えると難聴の発現頻度が高くなり、1日の投与量が150ミリグラムを超えるとほとんどの症例で難聴が出現することが知られています。

 アミノグリコシド系抗菌薬(ストレプトマイシンなど)による副作用は、遺伝的要因によって起こりやすい人がいることが分かっています。

 これらは、これまでのデータの蓄積によって予見できるものです。そうしたエビデンス(科学的根拠)が、患者さんの健康と安全を守ることにつながっているのです。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

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