身近な山も要注意 登山前に受けるべき検査を山岳医に聞く

対策はしっかり
対策はしっかり(C)日刊ゲンダイ

 登山をする人は、日頃元気でも「山の上でも大丈夫」と言いきれないことを肝に銘じておくべきだ。国際登山医学会認定・国際山岳医でヒマラヤ8000メートル峰登頂経験もある「沢田はしもと内科」の橋本しをり院長に話を聞いた。

 警察庁の発表によると、2017年夏期(7~8月)の山岳遭難発生件数は611件。発生件数最多の2016年からは減少したものの、3年連続で600件を超えている。山岳遭難で最も多いのは「道迷い」26.8%で、その後に「転倒」23.8%、「滑落」14.5%、「病気」14.2%と続く。

「病気のうち、多くを占めるのが心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化症による血管疾患です。健康そうに見えた人が予期せず突然帰らぬ人になる突然死のリスクもあります」

 ある60代男性は、長野・燕岳に登るため朝、中房温泉から登り始め、燕山荘直下の緩やかな階段で突然前に倒れ顔面を階段にぶつけた。中房温泉から燕山荘までは、4時間ほど(目安)のコースだ。

 この男性は倒れた後、周囲が呼びかけても反応がない状態で、脈は触れず、不規則な自発呼吸があった。心肺蘇生を開始したが、すぐに自発呼吸がなくなり、AED(自動体外式除細動器)をしたものの蘇生しなかった。

「山では何が起こるか分かりません。アップダウンのある山道を歩くことによる心臓への負担に加え、山の高度によっては低酸素でさらに心臓へ負担をかけます。また汗をかいたり、呼吸による水分不足の問題もあります」

 登山初日の午前中に突然死は起きやすく、睡眠不足や過度の飲酒が関連していることも分かっている。前述の男性は残念ながらAEDでも蘇生しなかったが、「倒れた場所の近くにAEDがなかった」というケースもある。

「最近は1人で登山をする中高年もよく見かけますが、何かあった場合、手の打ちようがない。また、“登山の三種の神器”と呼んでいる雨具、ヘッドライト、水分を含む食べ物すら持っていない無謀な登山者もいます」

■とっさの対応が難しい

 橋本院長は、がん体験者の登山活動を支援している。準備をきちんとすれば、がん闘病中であっても安全に登山を楽しめる。しかし、その準備を怠れば、特に中高年は、たとえ“ハイキング気分で行ける身近な山”であっても、いろんな要因が重なって、“最悪の事態”につながる可能性があるのだ。

 では、どんな対策をすべきか?

 高所登山や高所旅行をする人向けに、登山者検診ネットワークに参加している医療機関が実施する「登山者検診」がある。身長、体重、腹囲、血圧、心電図、胸部レントゲン写真、呼吸機能検査、血液検査、尿検査に加え、今までの登山歴、日常の運動量などの結果から、登山医学会会員医師が高所登山・高所旅行の危険度を判定する。

 ただし、登山者検診の費用は医療機関によって異なるが2万円前後で保険適用外。そこで橋本院長は、高所登山をする人に限らず、すべての登山者に、まずは自治体が行う健康診断を受けることを勧める。

「血圧、血糖値、中性脂肪、コレステロール値など動脈硬化に関連する数値をチェックしてください。異常値があればまずそれらの治療を優先し、コントロールがついたら、どれくらいの強度の運動が可能かを医師に相談してください。いびきをかく人は、睡眠時無呼吸症候群の有無も調べておくとよいでしょう」

 高血圧、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病を抱えている人は、登山スケジュールによっては薬の飲み方を工夫しなければならないこともあるので、主治医に確認を。

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