Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

日本は8割手術だが 子宮頸がんは“切らずに治す”が世界標準

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「何よりも生きるために。家族と生きるために。息子の成長を見守るために。1カ月半頑張ってみようと思います」

 ブログにそうつづったのは、タレントの川村りかさん(32)です。子宮頚部腺がんで子宮摘出手術を受けたものの、リンパ節への転移が認められたそうで、今月末から化学放射線療法を受けると報じられました。

 子宮の入り口付近を子宮頚部といいます。腟に近い方を扁平上皮、子宮体部に近い方を腺上皮といって、それぞれががん化し、扁平上皮がんと腺がんに。扁平上皮がんが7~8割と多く、残りが腺がんです。

 一般に腺がんは、子宮の内側にあり、細胞をこすり取って調べる細胞診検査で発見しにくく、早期発見が難しい。川村さんのブログによると、病期は当初「1B1期」だったそうですが、検査の結果「2A期」だったといいます。

 注目は、治療法の選択です。今回のケースは、子宮摘出手術を受けてから、化学放射線療法を追加しますが、最初から化学放射線療法で子宮を温存できた可能性があります。国際的なガイドラインでは、2A期でも手術と放射線が併記されているのです。

 子宮頚がんの根治治療は手術と放射線で、その2つの無作為比較試験では、生存率に差はありませんでした。つまり、放射線で子宮を温存しても治療効果は手術と同等ということです。

 さらに放射線治療単独と放射線治療と抗がん剤を併用する化学放射線治療を比較。その結果は、化学放射線治療の方が放射線単独より効果的でした。

 手術と化学放射線療法を直接比較した試験は、ありませんが、これらを総合すると理論上は、手術より化学放射線治療がベターといえるかもしれません。私が勤務する東大病院放射線科でも、多くの子宮頚部腺がんを化学放射線療法のみで完治させています。

■毎年約3000人が命を落とす

 日本では、子宮頚がんは8割が手術で治療されますが、欧米は8割が放射線治療です。まったく逆。腺がんは、扁平上皮がんより悪性度が高いことが多いこともあり、日本では手術が勧められるケースがありますが、実は肉体的な負担が重い手術ではなく、化学放射線療法で治ることが少なくないのです。

「マザーキラー」という言葉をご存じでしょうか。欧米で子宮頚がんの別名として使われます。手術で子宮を摘出するつらさに加え、若い母親が子供を残して亡くなるつらさを意味するのです。

 子宮頚がんは、毎年約1万2000人が発症し、約3000人が命を落としています。2000年代になり、30歳前後の若い女性に増えているのが特徴です。日本も「マザーキラー」に苦しむ家庭があるのです。

 ただし、子宮頚がんはセックスによって媒介されるHPVというウイルス感染が原因。そのワクチンを巡っては、副反応問題がありましたが、ワクチンの影響ではないということで決着がつきつつあります。ワクチン接種が再び広がれば予防できますし、万が一、発症しても化学放射線治療があります。このことは忘れないでください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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