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26年ぶりの報告 「ギラン・バレー症候群」日本発の新治療法

桑原聡教授
桑原聡教授(提供写真)
桑原聡教授 千葉大学医学部付属病院神経内科(千葉市)

 先月20日、国際医学雑誌「ランセット・ニューロロジー」に、日本発の「ギラン・バレー症候群」に対する新規治療の臨床試験(医師主導治験)の結果が発表された。行われたのは国内の大学病院を中心とした13施設による第Ⅱ相試験だが、これまで25年以上にわたり新規治療が探し求められていたことから、世界中の専門家に注目されている。研究グループの中心となった桑原聡教授(顔写真)はこう言う。

「ギラン・バレー症候群は、自己免疫によって筋肉を動かす運動神経が障害され、手足のマヒやしびれが急速に生じる病気です。国内の発症は年間約1400人と希少疾患ではありますが、重症では治療しても約5%が死亡、約20%は1年後に歩行介助が必要となり、約40%は職業を変更しなくてはいけなくなります。そのため、世界中で新規治療の開発が試みられてきたのです」

 従来の標準治療は、1985年に米国から有効性が報告された「血しょう交換療法」と、92年にオランダから有効性が報告された「免疫グロブリン療法」。その後、数多くの薬剤を用いた臨床試験が行われたが、いずれも実用化に至らなかった。

 ギラン・バレー症候群の典型例は、最初に下痢や風邪(細菌やウイルス)などの先行感染がある。その病原体(抗原)を攻撃するための免疫反応(抗体)が、間違えて自分自身の運動神経を攻撃してしまうために手足のマヒを発症する。

■半年後に74%が走り回れるまでに回復

 桑原教授らが治験で行ったのは、従来の「免疫グロブリン」に、「エクリズマブ」という薬剤を加えて投与する治療法(点滴)。エクリズマブは、「発作性夜間ヘモグロビン尿症」という難病に使われている薬(日本では08年に承認)。

 血液中に存在する「補体」と呼ばれる免疫反応を補助するタンパク質の活性化を強力に抑える作用がある。

「ギラン・バレー症候群も、マウスの動物モデルの再現で、補体の活性化が大きく関係していることが推定されていました。それで、エクリズマブを加えて補体の活性化を抑制すれば神経障害の進展が抑制できて、後遺症を軽減できるのではないかと研究を計画したのです」

 治験は、ギラン・バレー症候群に罹患してから2週間以内の自力では歩けない重症患者34人を対象に行った。免疫グロブリンにエクリズマブを加えた23人と、有効成分を含まない製剤(プラセボ)を加えた11人を、週1回の投与で6カ月間の経過を比較した。

「結果は、4週時点で自力歩行まで回復した方の割合はエクリズマブ群で61%(プラセボ群45%)、24週では92%(同72%)。さらに走れるまで回復した割合は24週で74%(同18%)です。走れるということは筋力が完全に戻って、元の生活に復帰できるということです」

 エクリズマブとの関連が否定できない重篤な有害事象として、アナフィラキシーと脳膿瘍が一部認められたが、いずれの患者も回復したという。今後は、企業主導による第Ⅲ相試験が進められる予定だ。

 新規治療が早く臨床現場で使えるようになり、従来の治療法では抑えられなかった重症患者の後遺症が大幅に減ることを期待したい。

▽1984年千葉大学医学部卒。99年豪州・プリンスオブウェールズ神経科学研究所に留学、2001年千葉大学大学院医学研究院・神経内科学講師、08年から現職。〈所属学会〉日本神経学会理事、日本神経免疫学会理事、日本神経治療学会理事など。

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