がんとは何か

<1>魚も植物もがんになる メダカは3カ月で

飼育された魚には比較的がんは多くみられる
飼育された魚には比較的がんは多くみられる(C)日刊ゲンダイ

 がんとは制御されない細胞の増殖であり、発生部位から体の他の部位へ細胞浸潤と臓器転移を示す病気の一群をいう。それは遺伝子の異変で始まることから、「がんとは遺伝子の病気である」といわれる。ならば、魚や虫や植物もがんになるのだろうか。元東京大学医学部長で名誉教授(病理学)の石川隆俊氏が言う。

「もちろんがんになります。野生の魚は命が短いのでめったに見ることはありませんが、それでもヘドロがたまった米国の五大湖の底に生息するカレイ類には1980年代に肝臓がんが多く見られました。飼育された魚には比較的がんは多く見られ、ニシキゴイには腸満という病気が江戸時代からありましたが、よく調べてみると卵巣がんでした。金魚には赤色腫と呼ばれるがんがあります。人間ではメラノサイトという黒色の色素細胞がメラノーマというがんになりますが、赤色腫は金魚の赤い色素細胞由来のがんです。ショウジョウバエには脳や血液などのがんがあります」

 植物のがんではクラウンゴール病という根頭癌腫病が有名だ。バクテリアで発症するがんで、幹や枝にこぶ状の癌腫ができて衰弱させ、最後は枯らしてしまう。バラ、リンゴ、ナシの木など数多くの植物に感染してがんをつくる。遺伝子組み換え作物も、このバクテリアを応用してつくられる。

 石川氏は世界で初めてがん修復遺伝子を導入したマウスをつくり、DNA修復ががん発生に直接かかわることを動物実験で証明した。DNA修復酵素を組み込むと、発がんが抑えられ、逆に外してしまえば、がんがいっぱいできる。その石川氏は常陸宮殿下の魚のがんに関する研究も手伝ったことでも知られる。

「ある発がん物質を水に溶かして、メダカを3カ月間飼うと100%がんができます。肝臓や皮膚、えら、網膜、腸のがんもできるのです」

 メダカはマウスと違って短期間でがんができるうえ、透明で外側からがんの発生が簡単に観察できることから、今も実験用として重宝されているという。

「こうした魚や虫や植物のがん研究は人間のがん研究にも大きな貢献をします。例えば、ショウジョウバエのがんの遺伝子解析により、人のレチノブラストーマ(網膜芽細胞腫)という病気の発生機構の解明に大変役に立ったことが知られています」

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