NHK朝ドラで注目「ムンプス難聴」 医師が説く唯一の回避策

「人工的なのはNG」とワクチンを受けさせない親もいる
「人工的なのはNG」とワクチンを受けさせない親もいる(C)共同通信社

 NHK朝の連続テレビ小説「半分、青い。」の主人公、鈴愛は小学3年生の時に左耳の聴力を失った。彼女の診断名が「ムンプス難聴」。国立成育医療研究センター感覚器・形態外科部・耳鼻咽喉科医長の守本倫子医師に話を聞いた。

 今、ムンプス難聴への関心が徐々に高まりつつある。一つは「半分、青い。」。そしてもう一つが、5月14日に17学会で構成される予防接種推進専門協議会から厚労省に出された、おたふくかぜワクチンの定期接種を求める要望書だ。守本医師は同協議会の委員。

「日本は先進国で唯一、おたふくかぜワクチンが定期接種化されていません。そのため予防接種率は30~40%と低く、おたふくかぜの大流行を招いている。おたふくかぜにはムンプス難聴という合併症があり、発症すると治療法はありません」

 つまり、難聴が生涯続く。一側性難聴(片側の耳の難聴)が多いが、みるみる悪化し、両側の耳が難聴(両側性難聴)になるケースもある。

 おたふくかぜの原因が、ムンプスウイルスだ。ムンプスウイルスに感染すると両側の耳下腺が腫れるが、500~1000人に1人の割合でウイルスが内耳に侵入して細胞を障害。高度の難聴に至る。

「おたふくかぜワクチンの接種が唯一の回避策です。しかし接種率が低いのは、医師の間ですらワクチンへの誤った認識があるからです」

■「今からでも受けるべき」

 まずは、副反応への誤解だ。おたふくかぜワクチンには、無菌性髄膜炎、脳炎、精巣炎などの副反応がある。ところが、国立感染症研究所によれば、血小板減少性紫斑病を除き、いずれも「自然感染(ワクチンを接種せずに感染)」の方が発生率が高い。血小板減少性紫斑病についても「自然感染が頻度不明、ワクチン接種が100万人に1人」という少なさだ。

 次に、「自然感染の方が免疫がしっかりつく」。確かに免疫はつくが、難聴のリスクを考えると、ワクチンを拒否する理由としては弱すぎる。

 さらに、「片側の耳が聞こえるのだから問題ない」という考え。確かにムンプス難聴の多くは一側性難聴だが、両側性難聴のリスクがゼロでないのは前述の通りだ。加えて、一側性難聴であってもさまざまな困難がある。

「難聴側の音が聞こえづらい。いろんな声や音が飛び交う場所では聞こえづらい。音がどこから聞こえてくるか分からない。グループで話すと相手の話を聞き取れない。“無視された”と友人から言われることが続き、自分に自信がなくなったり、引っ込み思案になることもあります」

「半分、青い。」の鈴愛は、おたふくかぜらしき症状がなく、耳が聞こえなくなった。おたふくかぜの典型的症状は耳の下の腫れだが、3割程度は鈴愛のように、症状がほとんど出ない「不顕性感染」。不顕性感染でも、難聴リスクがある。

 また、発症年齢によっては自分から「耳が聞こえない」と言い出すことがないため、何カ月、何年も経ってから親が気づくケースもある。そうすると、生まれつきの難聴か、ムンプス難聴かの区別がつかない。専門医の中には、「報告されている発症率より、実際はもっと多いのでは」と指摘する人もいる。 

「繰り返し言いますが、ムンプス難聴の対策はワクチンしかない。受けていなければ、今からでも受けるべきです」

 大人でも感染リスクがある。子供から親へ、親から別の子供へ、と感染の輪を広げる可能性もある。ワクチンは内科や小児科で接種できる。自費で5000円ほど。2回接種で難聴をはじめとする合併症を発症しなくなる。

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