がんとは何か

<4>年寄にがんが多いのはなぜか?(1)

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 がんは老人に多い病気でもある。

 年齢階級別のがん罹患率を見ると50歳以降、急激に増えている。なぜ、がんは年寄りに多いのだろうか? 国際医療福祉大学内科学の一石英一郎教授が言う。

「主に2つの理由が考えられます。1つは化学物質や放射線、紫外線など細胞外からの酸化によるものや、食事、運動など発がんに関わる外因的リスクが高まること。もう1つは細胞分裂回数の多さに比例して細胞分裂時のコピーミスが増えたり、細胞の呼吸による細胞内の酸化の影響などの内因的リスクです」

 外因的リスクはよく話題になるが、内因的リスクはよく知らない人が多い。

 例えば、人の細胞は毎日1%ずつ死んでいく。それを補うために細胞分裂して新たな細胞をつくるが、このときは、まずDNAの複製から始まる。

 DNAとはデオキシリボ核酸と呼ばれる物質で、細胞の核内の染色体の中に折りたたまれて入っている2本鎖の構造物のこと。A(アデニン)、C(シトシン)、G(グアニン)、T(チミン)の4種類の塩基などからなり、鎖の所々にその生物をつくる設計図のような情報(=遺伝子)が書かれている。

■細胞の酸化とコピーミス

「人間は1ミリの200分の1の細胞核の中に23対46本の染色体があり、その中に60億個の塩基があって、2万2000個の遺伝子が刻まれています。DNAが分裂するときは2本の鎖がほどけて、片側が鋳型になり、反対側の鎖が合成されるのです」(一石教授)

 このときのコピーミスの確率は1000万分の1ともいわれる。1個のDNAには60億個の塩基があるため、DNA1個の複製で600の塩基配列の異常が起こる計算になる。

 人間の体は37兆個の細胞でできており、1日当たりの細胞分裂数を考えれば、DNA複製時の突然変異数は膨大だ。

「だからといって、ただちにがん化するわけではありません。ほとんどは修復され、それが無理なら死んでしまう上、がん化するのは2~6個程度の特定の塩基配列ミスが起きた場合に限られるからです」(一石教授)

 細胞をがん化させるもうひとつの大きな要因は、細胞内呼吸の過程でつくられる活性酸素だ。細胞が生きていくにはエネルギーが必要で、そのエネルギー源はATP(アデノシン三リン酸)だ。これは細胞内に220~1700個近く存在するミトコンドリアと呼ばれる細胞内小器官でつくられる。

 細胞内に酸素がないときは1分子のブドウ糖から2個のATPしかつくられないが、酸素があれば40個近いATPがつくられる。このときの副産物が活性酸素で、蓄積すると細胞内のタンパクや脂質を化学的に攻撃して細胞を損傷させる。体内で消費される酸素の3%が活性酸素になるといわれ、そのダメージは大きい。細胞内には活性酸素を代謝して無害にする仕組みがあるが、年を取るとその能力が弱まり、がん化が進むという。

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