がんとは何か

<5>年寄りにがんが多いのはなぜか?(2)

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 細胞は一定の回数、細胞分裂を繰り返した後に分裂限界(分裂寿命)を迎えて細胞分裂を停止し、元に戻らなくなる。これを細胞老化という。ヒトは50~60回が分裂寿命といわれている。

 細胞老化は細胞分裂のたびにテロメア(染色体の端にあり命の回数券と呼ばれる)が短縮していくことで起きる。一定程度短くなると、細胞はDNAの損傷と認識して増殖を停止してしまう。がんと最新の遺伝学にも詳しい国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。

「実は近年、分裂寿命を迎えなくても細胞が増殖を急にやめる場合があることがわかってきました。細胞が異常増殖を始めたり、細胞をがん化させるようなDNAの損傷を受けた場合、細胞は増殖をやめることでがん化を防ぎ、生体として死を免れようとするのです」

 興味深いのはがん化を防ぐための仕組みであるこの細胞老化した細胞が新たながんを招く恐れがあることだ。

■炎症性サイトカインが大量に分泌される

 細胞老化した細胞は死なずにある程度の期間体内にとどまるため、どんどん蓄積される。そこからさまざまな炎症性サイトカインを分泌する。これを細胞老化分泌現象(SASP)という。これが細胞の新たながん化を促している可能性があるという。

「がん組織には、がん細胞とがん組織の間にあってがん細胞を支援する“がん微小環境”というものが存在することがわかっています。これは線維芽細胞、炎症細胞、免疫細胞、血管、リンパ管から構成され、がん細胞が生きていくうえでは欠かせません。細胞老化した細胞が重なりあった箇所ががん微小環境になっている可能性があるのです」(一石教授)

 実は肥満にがんが多いのはこのがん微小環境システムが関係しているのだという。

「高脂肪食を食べさせたマウスは各所で、細胞周期を停止させる働きがあるP16やP21遺伝子の発現が強まっていることが確認されています。肥満になると細胞周期がストップした細胞老化の細胞が増えてSASP作用を起こし、がん微小環境をつくっていると考えられるのです」(一石教授)

 実際、肥満によって増加した腸内細菌の代謝産物であるデオキシコール酸が腸肝循環によって肝臓に達し、肝星細胞が細胞老化・SASPを起こして肝がんを促進させるがん微小環境がつくられることがわかってきたという。

 これは診療現場においても、高度脂肪肝では胆汁鬱滞の指標であるALPやγ―GTPが高値になりやすく、このような脂肪肝は肝硬変から肝臓がんになりやすいことが既に分かっている。最近肥満や脂肪肝からの肝臓がんが増えている機序がこれで説明できるだろうと考えられるという。

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