がんは遺伝子が壊れる病気といわれる。そのキッカケとなるのは大気汚染や化学製品、お酒やたばこ、運動不足や過食などの生活習慣を含めた環境要因なのか。
それとも細胞分裂に伴う遺伝子のコピーミスや細胞呼吸による酸化など内因的原因で発生する必然なのか。
その割合について世界中で論争が続いている。
「がんの60%以上はDNAのコピーエラーで起きるのであって、どうあがいても回避できない」
こう主張しているのはジョンズ・ホプキンス大学キンメルがんセンターのクリスチャン准教授とベルト教授で、「サイエンス」に発表した。これまでは親から子に受け継がれる遺伝と農薬や大気汚染などの環境要因が原因とされたが、もうひとつ別の要因があって、その方がメインだという。
一方、「ネイチャー」は「がんの70%は環境要因であり、細胞分裂に伴う遺伝子のコピーミスは30%以下」と正反対の主張を掲載している。
もし、がんの60%以上が内因的要因による不運な出来事の連続で起こるのなら、それほど発がん物質などに神経質になる必要はないようにも思える。元東京大学医学部長(病理学)で現同大名誉教授の石川隆俊氏が言う。
「自然界では短命の生物は感染症などで死ぬため、がんで死ぬことはほとんどありません。がんは長生きする生物の病気でがんの罹患率は年齢が高くなればなるほど高くなる。それは人間も同じです」
実際、2016年の日本人の年齢階級別がん死亡率(全部位、人口10万人対)で見ると20~25歳と85歳以上とでは3000倍近い差がある。
「食事や住まいなどの生活スタイルはまったく違い、仕事も学歴も違う。それなのに集団で見ると、見事に40歳を超えるとがんが増えていく。高齢化ががんの最大のリスクであるのは間違いない。ただし、年齢だけががんの原因なら、40歳を超えるとがんの患者数や死亡者数は直線的に増加するはずです。ところが実際はカーブを描いている。つまり、がんの原因はベースが年齢であって、それ以外に複数の原因が重なりあって起きているのだと考えられます」
では、なぜ、高齢になるとがんになるのか?
「ある時点で急にDNAを修復するシステムに異常が起きるわけではないし、がん遺伝子が急に暴れ出すわけでもありません。結局、細胞分裂時のDNAのコピーミスや細胞呼吸に細胞の酸化など、生きていく上で避けられないことによりDNAの塩基配列が変異するのでしょう」
ただし、DNAの塩基配列が変わればすぐにがんになるわけではない。がんになるのはがん抑制遺伝子やがん遺伝子と呼ばれる遺伝子が2~5個程度に変異があった場合と考えられている。ごく最近はたった一つの変異でもがんになり得ることも報告されている。
「その意味でがんは一つの細胞に起きた不幸な偶然で起きるもので、環境要因によるものは、以前考えられたよりも大きくないと考えられます」
がんとは何か