がんとは何か

<8>食事や運動でがん発症リスクが下げられるのはなぜか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 がんは遺伝子変異による病気で、変異をもたらす原因の多くは細胞分裂時のDNAのコピーミスや細胞酸化などで避けられない。これが事実としたら、がん予防のための食事や運動は意味がないのだろうか? 

 国際医療福祉大学病院内科学教授でがんや最新の遺伝子学に詳しい一石英一郎医師が言う。

「そうではありません。生命の設計図であるDNA情報からさまざまなタンパク質がつくられ、臓器などがつくられますが、それは状況や環境に応じて変化することがあります。食事で取った栄養素や運動により体内でつくられたホルモン様の物質などは設計図が書かれている遺伝子の翻訳や転写を“オン・オフ”にすることが可能なのです。それがエピジェネティクスと呼ばれるものです」

 エピジェネティクスを専門的に言うと、「遺伝情報であるDNAの塩基配列を伴わずに、後天的な化学修飾によって遺伝子制御される現象」のこと。具体的には遺伝子を使うか使わないかを制御しているDNAのプロモーター部分をメチル化することだ。

「DNAにはACGTの4つの塩基がありますが、メチル化とはC(シトシン)にメチル基がくっつくことを言います。その結果、その遺伝子が動かなくなる。これがエピジェネティクスです」

 つまり、すべての事柄がDNAの塩基配列のみによって決まるのではなく、後天的な要因によって遺伝子が表現するものが違ってくることがあるのだ。

 一番わかりやすい例が双子のがんだ。同じ遺伝子を持つ双子で、生涯を通じて同じような地域で同じような生活習慣をしていても、必ずしも同じがんになるわけではない。

 また、食べ物や生活習慣が違っただけで病気のなりやすさ、寿命が大きく変わることがある。典型は沖縄県民の平均寿命だ。

 長年、国内有数の長寿県だったが、2005年まで首位をキープしていた女性は15年の調査では第7位に、男性は2000年に26位に転落。男性はその後も下位に低迷している。15年の年齢調整死亡率では、肥満などが原因で発症する肝疾患の死亡率は男女ともワースト1位、女性の糖尿病もワースト1位になっている。その原因は食事の欧米化にあるといわれている。

「わずかの年数でこれだけ平均寿命が変わったのは遺伝子が突然変わったわけではないでしょう。食生活の変化などによるエピジェネティクスの影響が出たからだと思われます」

 遺伝的に同じがんリスクがあっても、がんになる人とならない人がいるのは、このエピジェネティクスによるものだ。

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