がんのステージが上がるほど不安が強くなるイメージがあるが、実際は違うようだ。大手製薬会社が行った調査で、肺がんⅢ期で化学放射線療法を受けた患者は、Ⅳ期の患者と同等かそれ以上の不安や精神的ストレスを感じていることが明らかになった。
■20年ぶりの有効策登場に期待
Ⅲ期の非小細胞肺がんは肺がん全体の21・1%を占め、毎年2万人が新たに診断されている。
「Ⅲ期では縦隔リンパ節転移、Ⅳ期では遠隔転移が考えられ、目に見えないがん細胞が血液によって全身に運ばれている可能性があります。切って(手術)、焼いて(放射線)治るものは、切る・焼くのですが、目に見えない転移の可能性のあるⅢ期以降では、化学療法(抗がん剤)で全身治療を行います」(和歌山県立医大呼吸器内科・腫瘍内科の山本信之教授=以下同)
近年、免疫チェックポイント阻害剤や分子標的薬の登場で、“極めて厳しい状態”のⅣ期に希望が見えてきた。
一方、免疫チェックポイント阻害剤の対象ではなく、取り残されたようになっていたのがⅢ期だ。それが、冒頭の調査結果に反映されているのだろう。
「しかし今、Ⅲ期は放射線と抗がん剤で“治癒”を目指せます。Ⅲ期の多くは遠隔転移で再発するので、それを抑えるのが重要になります」
抗がん剤は、1980年代に登場した「第2世代(シスプラチン、ビンデシンなど)」、90年代以降の「第3世代(パクリタキセル、ビノレルビンなど)」がある。2つを比較すると、単剤投与では第3世代の方が効果が高い。
ところが、放射線との併用では、「どっちが良い、悪いというのが出ない。多くの研究結果が、どの抗がん剤でもほぼ同じ結果です。患者に合わせて抗がん剤を選択し、放射線と組み合わせて治療している」。
2000年以降、開発されたのが分子標的薬(ゲフィチニブ、クリゾチニブなど)だ。
患者の遺伝子変異に応じた薬を選んで投与するため、より的確にがんを攻撃でき、肺がんの治療成績を大きく向上させた。
「放射線と併用すればもっと効果が高いのでは? そう考え研究が始まりましたが、ゲフィチニブをはじめ多くの分子標的薬は、薬剤性の肺障害を起こし肺にダメージを与える。危険すぎて使えないとなった」
■免疫チェックポイント阻害剤も注目
そこで今、期待が高まっているのが免疫チェックポイント阻害剤だ。免疫細胞の攻撃を阻止するPD―L1、PD―L2という“免疫チェックポイント”を阻害する薬で、前述の通り、Ⅳ期では適用。がん増悪を抑制し、生存期間も延びた。
研究の結果、Ⅲ期でも免疫チェックポイント阻害剤を投与した群は、従来の抗がん剤治療群に比べて死亡リスクを有意に低下させた。
「また、放射線照射でPD―L1の発現レベルが高くなり、放射線と免疫チェックポイント阻害剤を一緒に行うと生存期間が延びることが分かりました。さらにアブスコパル効果といって、放射線療法で抗腫瘍免疫反応が誘導され、免疫系が活性化し、がんを攻撃しやすくなった。Ⅳ期よりがんの量が少ないⅢ期では、免疫療法の効果がより期待できる。この20年、Ⅲ期に対していい治療が見いだせませんでしたが、ようやく有効な治療が患者さんに届けられるようになるかもしれません」
まだ臨床応用にはなっていないが、そう遠い先のことではないだろう。
肺がんは組織型で「小細胞がん」「非小細胞がん」に分かれる。非小細胞肺がんは、肺がんの85%を占める。