がんとは何か

<13>若い人のがんはたった一つの遺伝子変異で発症する

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 発がんを促すがん遺伝子やがん化にブレーキをかけるがん抑制遺伝子をドライバー遺伝子と呼ぶ。その変異が直接発がんにつながるからだ。一方、本来は発がんとは無関係でありながら、ドライバー遺伝子に巻き込まれて変異した遺伝子がパッセンジャー遺伝子だ。

 前々回、複数のドライバー遺伝子が順番通り変異すると大腸がんになることを紹介した。

 しかし、がんのなかにはたったひとつのドライバー遺伝子の変異でがんになる場合もある。米国がん学会の会員で、最新のがん情報にも詳しい国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。

「例えば、EML4―ALK融合遺伝子と呼ばれる肺がんの遺伝子です。細胞増殖をつかさどる酵素『チロシンキナーゼ』の一種であるALKが、EML4と融合することで活性化され、歯止めのない増殖が始まり、直接発がんを誘導します」

 この融合遺伝子が「日本の研究者の手で発見された」と発表された2012年当時、この遺伝子が陽性の肺がん患者は全体の約4%、若年肺腺がんの約3割を占め、非喫煙者に多いことが明らかになっていた。

 融合遺伝子による発がんの例には、慢性骨髄性白血病(CML)がある。BCR―ABLと呼ばれる融合遺伝子が生まれることで、増殖シグナルが出しっぱなしになり、白血病細胞が異常に増殖し、白血病を発症する。

「この病気は数年間はあまり自覚症状がない慢性期があり、その後、急性白血病と同じ状態に進展する病気です。この病気の患者さんの95%以上でフィラデルフィア染色体という異常な染色体が見つかります。発症する原因は、この染色体上にあるBCR―ABL遺伝子です」(一石教授)

 ヒトの染色体は23対46本ある。フィラデルフィア染色体は9番目と22番目の染色体が途中から切れて入れ替わってつながる相互転座でできている。

「2つの染色体がつながるとき、それぞれの切り口にあるBCR遺伝子とABL遺伝子が融合してBCR―ABL遺伝子が生まれます。この遺伝子によってつくられるBCR―ABLタンパクは、白血病細胞を増やす指令を出し続けるため、白血病細胞が増え続けるのです」(一石教授)

 たったひとつの遺伝子変異でがんになるということは、それだけ強力な発がん要因であるということ。がんは年寄りに多い病気といわれるが、若い人でもがんになるのは、ドライバー遺伝子1個の変異でがんになるからでもある。また、「がんは遺伝子の病気」といわれるが、実は染色体の異常でもがんになるのだ。

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