前立腺がん手術後 尿のじゃじゃ漏れ防ぐ唯一の治療法とは

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 前立腺がんの手術で命は助かった。でも、尿漏れが止まらない……。前立腺全摘後の重篤な尿漏れの治療が、人工括約筋埋め込み手術だ。国立がん研究センター東病院泌尿器・後腹膜腫瘍科の増田均科長に聞いた。

 前立腺がんでがんが前立腺内にとどまっている場合などは、前立腺全摘手術が行われる。前立腺がんは、排尿に関係する尿道括約筋と近い場所にできることが多く、大抵の患者に術後、尿漏れが起こる。

「一般的に、6カ月くらいで急激に尿漏れが改善し、1年も経てばなくなります。それまではパッドで対応します」

 ところが、まれに“じゃじゃ漏れ”が6カ月を超えても続き、パッドでは到底間に合わず、おむつを手放せなくなる人がいる。

 患者の肥満度、骨盤の形、尿道括約筋の個人差などさまざまな要因が関係しており、「米国でトップクラスの腕の医師が手術をした場合でも2・3%の比率で起こる」という報告もある。

■人工括約筋埋め込み術で劇的に改善

「尿漏れの治療には、骨盤底筋体操、膀胱訓練、抗コリン薬などの薬物療法がありますが、前立腺がんによる重度の尿漏れには効きません。唯一の治療法が人工括約筋埋め込み手術になります」

 人工括約筋埋め込み手術は、前立腺がん術後、1年ほど経過した辺りから検討される。手術は全身または腰椎麻酔下で、会陰部と下腹部を5センチほど切開し、人工括約筋を埋め込む。

 手術時間は、増田科長のようなベテラン医師で60~80分。入院期間は約1週間だ。

 人工括約筋は、「尿道を圧迫する液体が入ったカフ」「陰嚢内に留置するコントロールポンプ」「圧力調整をするバルーン」の3つのパーツで構成され、これらはチューブでつながっている(図参照)。

 埋め込み後6~8週間経ってから使用可能だ。カフは尿道の周りに巻き付いて、拡張期血圧(下の血圧)よりやや低めの70㎜Hg程度の圧力で、尿道を圧迫し、尿が漏れないようにする。排尿時には、ポンプを陰嚢の外から押す。するとカフのチューブの液体がチューブを介してバルーンへ移動し、尿道にかかる圧が弱まり、排尿できる。

 排尿後は1~2分で液体がバルーンからカフへ戻り、尿道に圧をかけ、尿が漏れないようになる。

「医療機関によって差はありますが、平均して3~5年で25%が人工括約筋が使えなくなります。このうち10%が故障で、取り換えればいいので継続使用ができます。5%が感染で、いったん人工括約筋を取り出し数カ月後に施術を行う。残り10%が尿道の萎縮などで、これも人工括約筋の設置場所を変えることで対処できます」

 人工括約筋埋め込み手術をしても、スポーツや大きなくしゃみなどで軽度の尿漏れが起こり、日常生活でパッド1枚程度が必要な場合もある。

「しかし、重症の尿失禁だった人には、おむつを使わなくて済むようになっただけで、生活の質が著しく上がります。人間の1日の排泄量1500㏄のほとんどが漏れてしまう人もいますから……」

 人工括約筋埋め込み手術は、保険適用。問題は、まだまだ認知度が低いことだ。

 前立腺がん手術後6カ月を過ぎても“じゃじゃ漏れ”であれば、今後よくなる期待はほぼ持てない。しかし、「体操や薬で良くなるかも」という間違った情報しか得られず、人工括約筋埋め込み手術の存在すら知らない人が多い。

 さらに今後の課題は、体操や薬などでは良くならない男性の軽症、中等症の尿漏れ。

 重症例には人工括約筋埋め込み手術があるが、軽症、中等症には適さない。画期的な治療法は国内で登場していないのが実情だ。

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