天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

急性心筋梗塞は効果的な治療法が広まり救命率が上がった

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 食事を改善したり、サプリメントなどの健康食品をうまく利用して、心臓疾患にかからないようにする――。そんな1次予防の考え方が広まり、近年は食品と心臓疾患に関連するさまざまな健康情報があふれています。

 たしかに、そうした情報をチェックして日々の生活に取り入れることは有効なケースも多いのですが、前回もお話ししたように、同時にそうした情報に振り回されないようにすることも大切です。

 さらに、そうした1次予防に関する情報以上に重要と言えるのが2次予防についての知識です。「病気にならないようにするために効果的な方法」が1次予防で、「いまある特定の病気をどのようにして治療したり、改善したりすればいいか」が2次予防にあたります。いまは健康な人を対象にしている1次予防に比べ、命の危機に直面している患者も対象になる2次予防のほうが圧倒的に進歩のスピードが速いと言えます。

 自分の体のどこかに不安を感じている人は、仮に病気を発症しても深刻な事態に陥ることを避けるため、心配している病気の2次予防はいまどこまで進んでいるのかを確認しておくことが大事なのです。

 たとえば、急性心筋梗塞の2次予防は、近年になって急速に進歩しています。この病気は、心臓に栄養と酸素を補給している冠動脈が急に詰まり、血流が滞って心臓の一部の筋肉が壊死するもので、突然死を招く危険もあります。日本では年間約10万人が発症し、そのうち3万~4万人が亡くなっています。

 いまから30年前は、急性心筋梗塞を発症すると入院しても20~30%が死亡していましたが、近年は入院すれば死亡率は5%以下に低下しています。地域によっては2%近くまで下がっていて、救命率が格段に上がっているのです。

 救命率がアップした大きな要因は、施設の拡充とデータに基づいた効果的な治療法が広まってきたことが挙げられます。

 かつて、心筋梗塞は発症してもヘタに手を出してはいけないといわれていました。人間の体には、血管が詰まっても、それを補うように別の血流路が発達するシステムが備わっていて、サポートするための新たな血流路は「側副血行路」と呼ばれています。そのため、心筋梗塞の患者に対しても介入はせず、自然の成り行きに任せて側副血行路が発達するのを待っていたのです。

 しかし、心筋梗塞に関するさまざまな治療データが蓄積されてきた結果、超急性期(発症してから4時間以内)の場合は治療をして一刻も早く血流を再開した方が治療効果が高いことがわかってきました。血管が詰まっている箇所をカテーテル、手術、薬物などで治療して血流を早期に再灌流させると、後遺症が少ないことが明らかになったのです。

■2次予防がどこまで進歩しているかを確認

 心筋梗塞の救命率が急速に上がってきたのは、そうした指標をベースにした心筋梗塞の新たな治療の取り組みを浸透させるキャンペーンがうまく機能した成果と言えるでしょう。

 いざという時のため、自分の住んでいる地域で、そうした2次予防=治療がどれだけ進歩しているかを確認しておくことは、命を守ることにつながります。

 たとえば、急性心筋梗塞を中心とする急性心血管疾患に対し、速やかに専門施設へ搬送し早期に専門的な治療を開始できるようにする取り組みとして、「CCUネットワーク」と呼ばれる地域連携診療組織があります。

 急性心血管疾患は、発症してからいかに早く専門病院で治療を始められるかが重要なため、患者を可能な限り早く収容できるよう、組織間で連携して常に各病院の空きベッド状況の把握などを行っているのです。

 先駆けとなった東京都CCUネットワークは、東京消防庁、東京都医師会、東京都福祉保健局、都内の各医療機関との共同事業として運営され、現在は都内73の施設が参加しています。近年は全国的に広まってきているので、自分が住んでいる地域ではそうしたネットワークが組織されているのかどうかを確認しておくだけでも、万が一の時のための“命綱”になります。

 病気にならないようにするための1次予防に関する情報を知っておくことも大切ですが、こうした2次予防についての医療情報をしっかり押さえておく方が重要だと言えるでしょう。

関連記事