風邪に抗生物質NGは大きな間違い 必要な人の2つの条件

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 風邪に抗菌薬(抗生物質)は効かないと、最近、よく聞かないか? しかし、これをすべての世代に当てはめるのはいかがなものかと、JCHO東京山手メディカルセンター呼吸器内科の徳田均医師が言う。

 厚労省は2017年、抗菌薬の使用指針「抗微生物薬適正使用の手引き」を作った。

 それによると、風邪(急性上気道感染症)は症状によって感冒、急性鼻副鼻腔炎、急性咽頭炎、急性気管支炎に分けられる。このうち、鼻水・鼻詰まり、喉の痛み、咳・痰があれば感冒で、抗菌薬を使わないことを推奨。鼻水・鼻詰まりが主要症状の急性鼻副鼻腔炎は、症状が重ければ抗菌薬の使用を検討。喉の痛みが主要症状の急性咽頭炎は、細菌検査で溶連菌が出た場合のみ使用。咳・痰が主要症状の急性気管支炎は、抗菌薬を使用しないとなっている。

「抗菌薬の乱用による耐性菌の脅威が世界的に認識され、取り組みが始まっています。これまで日本では開業医を中心に、抗菌薬が安易に出されてきました。今後、風邪に対する抗菌薬の使用を減らしていこうというのは、非常に大事な取り組み。しかし、風邪を4つの分類にきっぱりと分けるのは臨床現場では困難な上、風邪であっても、抗菌薬が投与されるべき患者がいるのです」(徳田医師=以下同)

 抗菌薬が必要な患者として挙げるのは、①50歳以上②昨年または一昨年に風邪症状(特に咳・痰)をこじらせた――の2つに該当する人だ。

「重要になるのが問診です。私が必ず質問するのが、過去の症状。中高年や肺の基礎疾患を持っている人は、感冒から、しばしば気管支炎や肺炎に移行します。これは臨床現場でよく経験することです。過去に感冒から気管支炎や肺炎などに移行したことがある患者は、今回も同じことを起こす確率が高い。その場合は、最初から抗菌薬を短期間投与するのです」

 抗菌薬を処方する前に、胸部エックス線写真などで肺炎の有無を調べれば……との声もあるだろう。しかし、風邪症状で受診した中高年の患者すべてに対し、胸部エックス線写真を撮ることは現実的ではない。だから、過去の病歴が重要なのだ。読者の中で過去にそのような経験のある人は、受診時、医師に申告した方がいい。

 さらに、高齢の患者では肺に何らかの基礎疾患を持っている人が多いが、患者は必ずしも自覚していない。COPDや気管支拡張症などと診断され、通院している人以外にも、隠れた基礎疾患を持っており、それを知らない人はたくさんいる。

「高齢者では、咳と色のついた痰で1~2カ月以上苦しむというパターンをよく見かけます。私がこのような患者にCT検査をすると、胸部エックス線写真で判明しなかった肺の基礎疾患(軽症の気管支拡張症、肺気腫など)が高率に認められます。このような方には抗菌薬がよく効き、長い咳、痰の苦しみから解放されます。だからこそ、前述の問診が欠かせないのです」

 徳田医師が抗菌薬を処方する場合、期間は5日以内。抗菌薬にはいくつかの種類があるが、気管支、肺の感染症に効果が優れている「レスピラトリーキノロン」という系統の薬を使うことが多い。

「レスピラトリーキノロンは5日以内であれば薬剤耐性は生じないという欧米の論文があります。また、キノロン耐性肺炎球菌の頻度は過去10年余にわたって1%前後で、増えていません。乱用さえしなければ、重い病気への発展を阻み、またつらい症状を解決する有用な薬なのです」

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