塩分控えめ「機能性塩」使用を注意しなければならない人

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 減塩パン、減塩漬物、減塩ラーメン……。いま、世を上げて減塩運動が行われている。目的は高血圧予防。塩分(ナトリウム)を取り過ぎると血液のナトリウム濃度を一定に保とうとして水分を取る。すると、血液量が増え、末梢血管の壁にかかる抵抗力が高くなり、血圧を上げる。ならば、塩分である塩化ナトリウムの摂取量を減らせばいい、という理屈だ。

 その影響で最近人気になっているのが、おいしさは変わらず「塩分控えめ」をうたう機能性塩だ。しかし、この機能性塩を取り続けることは一部の人にとって危険ではないのか、という声がある。どういうことか。

 本来、塩の成分のほとんどは塩化ナトリウムだ。機能性塩はその半分を塩化カリウムで補っている。

 カリウムには利尿効果があり、尿の排泄と共にナトリウムを排泄し、血液量を少なくすることにより血圧を下げる働きがある。塩化カリウムは苦味のある塩味をもつ。これが機能性塩の味を大きく変えず、血圧を下げられる仕組みだ。

 しかし、この「塩分控えめ」の機能性塩は健康な人はまだしも、腎臓の機能が低下している人が使うのは問題があるという。

 元財団法人塩事業センター海水総合研究所所長の橋本壽夫氏が言う。

「カリウムは主に腎臓で排泄されるため、腎臓の機能が低下している人はカリウムが排泄できず高カリウム血症になる恐れがあるからです」

 人間は37兆個の細胞からできていて、細胞内にある液体を細胞内液といい、外部の液体を細胞外液という。細胞内液には細胞が独立して生きていくうえで必要な水分や成分があり、外液は血漿や関節の潤滑剤である組織間液、リンパ液、唾液、涙、汗などをいう。

 ナトリウムとカリウムは水に溶けるとイオンとなり、それぞれの濃度は細胞外液ではナトリウムイオンが、細胞内液ではカリウムイオンが高くなる。細胞膜はそれらの濃度を調整する機能があり細胞内外の老廃物や栄養などを行き来させている。

 高カリウム血症とは細胞外液のカリウム濃度が高くなった状態を指す。高カリウム血症が起きると、四肢のしびれ、弛緩性麻痺などが起きるほか不整脈を経て心臓が停止することがある。

 実際、動物の薬殺にはカリウム注射が使われる。阪神・淡路大震災では、長時間家屋の下敷きになったものの外傷もなく無事に助け出された被災者が病院に収容された後、相次いで突然心臓が止まってしまう出来事が起きた。後の調査で「クラッシュシンドローム(挫滅外傷症候群)」と呼ばれる病態であることが判明した。物の下敷きとなり細胞が破壊されて細胞内のカリウムが大量に放出、心臓を直撃したという。今では災害時のトリアージ(患者の重症度に基づいて治療の優先度を決めて選別すること)では、元気で助け出された人でも物の下敷きになった人は最優先に治療されるようになった。それほど過剰なカリウムは恐ろしいのだ。

■商品には「注意書き」もあるが…

「海外では早くから機能性食塩が販売されていますが、その商品表示には『正常で健康な人が使用する物で、ナトリウムやカリウムの摂取量を制限されている人は医者の許可なしに使ってはいけません』『この製品を使う前に、ナトリウムかカリウムの制限食が必要かどうか医者に相談してください』『いくつかの利尿薬を飲んでいる人には適当ではない』などと書かれています」(橋本氏)

 腎臓生理学が専門の今井正・元自治医科大学名誉教授も、日本海水学会誌に「健康な人がナトリウムを制限するために半量をカリウムで置換したこの代替塩を使うのはまだ危険性は少ないが、カリウム制限を必要とする病態時に代替塩として使用するのは極めて危険である。ましてや腎不全時の浮腫に使うなどというのは殺人行為に等しい」と述べている。

 もちろん、日本でも機能性塩のパッケージなどには「本製品にはカリウムが含まれていますので、腎臓病の方や食事治療中の方は、医師にご相談の上、ご使用ください」などと書かれているが、気付かない人も多い。

 慢性腎臓病の患者数は成人の8人に1人の約1300万人。人工透析数は約33万人とされる。

 ところが、腎臓は我慢強い臓器でかなり悪化するまで自覚症状がないことが多く、治療が必要な人でも受診率が低い。だからこそ、機能性塩を使う場合は自身の腎臓の機能が正常か医師に相談して使う方が賢明だ。

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