推定15万人が装着している 人工肛門・膀胱とは何なのか?

臭いが外に漏れる心配もない
臭いが外に漏れる心配もない(C)日刊ゲンダイ

 大腸がん、前立腺がん、膀胱がん、子宮がん、潰瘍性大腸炎――。薬や手術などの医療技術の進化でこれまで救えなかったがん患者や難治性の病気も治療可能になってきた。それに伴い増えてきたのが人工肛門・人工膀胱だ。これを装着している人をオストメイトと言い、現在、日本のオストメイトの数は15万人ともいわれている。ある調査によるとオストメイトの9割は60歳以上で平均年齢は71.1歳だそうだ。

 人生100年時代、いまは想像すらできない健康な人であってもいつ人工肛門・人工膀胱のお世話になるかもわからない。どんなものか? 「永岡クリニック」(東京・江東区)院長で、消化器など外科手術を専門に手掛けてきた永岡康志医師に聞いた。

「ストーマとは手術によって消化管の一部をお腹の外に出してつくる排泄物の新しい出口のことです。便の出口である消化器ストーマ(人工肛門)と、尿路ストーマ(人工膀胱)があります。消化器ストーマはさらに手術の場所により結腸(大腸)ストーマと小腸ストーマに分かれます。さらに出口の穴が1つの単孔式と2つの双孔式があります」

 単孔式は主に永久人工肛門として、双孔式は腸が詰まって便が通らずにひどい腸閉塞を起こしたときや、大腸の手術後に縫合不全が起こったときなど、一時的に人工肛門をつくる場合などにもつくられる。

 腸や尿管には痛みを感じる神経がない。そのため、ストーマは触っても痛くなく、触られても感覚がない。

■水泳、性生活も大丈夫

 よく、ストーマからお腹の中に細菌やウイルスが侵入するのではないか、お風呂やシャワーのときにストーマからお腹の中にお湯が入ってくるのではないか、と心配する人がいるが、それはない。

「ヒトは常にお腹の内から外に腹圧がかかっていて、ストーマの出口は便や尿が出るとき以外は閉まっています。ですから、細菌やウイルス、お湯がお腹の中に入ることはありません。もちろんストーマの穴をのぞくとお腹の中が見えるなんてことはありません」

 ストーマと今までの排泄との違いは、便や尿を出すことはできても、ためる、がまんする、便意・尿意を感じる、といったことができなくなることだ。

「消化器ストーマでは腸内で飲食物が消化吸収されると自分の意思とは無関係に便が排泄されます。尿路ストーマも同じで、腎臓でつくられた尿はそのまま排泄されていきます。そのため、ストーマには便や尿をためるストーマ袋を装着し、たまったらトイレに捨てるという作業が必要になります。ストーマ袋は2~3日使えるものや1週間使えるものなどさまざまです。ストーマ袋には消臭剤が含まれ、排泄物の臭いが外に漏れる心配はありません」

 ストーマをつくる位置は下腹部で左右、真ん中、どこであっても構わない。

 日常生活での「かがむ」「座る」「立つ」「寝る」といった体の動きに合わせて、しわや皮膚のたるみなどを考慮し、ストーマ装具が平らで安定して張れる場所につくるという。

「日常生活で快適に過ごすため、自分でストーマが見えて、装具を張りやすい場所につくることが基本です。大事なのは腹直筋のある場所でなければならないことです。腹直筋が肛門筋の代わりになり、腹圧によりある程度の便や尿を押し出すことができます。また、ストーマは大腸か小腸か、つくる器官によって便の性状が変わります。小腸につくれば水っぽい便が、大腸につくれば固形の便が出ます」

 尿路ストーマは回腸(小腸)導管と尿管皮膚ろうの2種類がある。回腸導管は、回腸の一部に尿管をつないで回腸の一端を腹部に誘導してつくられ、尿管皮膚ろうは、尿管を直接腹部に誘導してつくられる。

「ストーマが必要になると告げるとびっくりして人生が終わったかのように感じられる患者さんもおられますが、今はストーマに関する知識が蓄積され、スムーズな日常生活が送れるようになっています。装具が触れる皮膚のスキンケアが必要、太って体形が変わると腹圧が増して、脱腸やヘルニアになるリスクがあるなど、面倒なことも確かにあります。しかし、入浴も泳ぐことも性生活も送ることができます」

 知ればストーマも怖くない。漫画家・小説家の内田春菊さん、声優の真山亜子さんなどストーマをつくっている有名人はいっぱいいる。生きるために必要な物は臆せず利用することだ。

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