天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

降圧剤を自己判断で変更したり中止するのは危ない

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 心臓や血管にトラブルを抱える患者さんにとって、いちばん身近といってもいい薬が血圧を下げる「降圧剤」です。

 70歳以上の2人に1人は降圧剤を飲んでいるといわれていますから、正しい付き合い方をしっかり確認しておくべきです。

 日本では大きく分けて6種類の降圧剤が処方されています。それぞれ新しいタイプもどんどん開発されていて、薬の価格は少しずつ高くなっているのが現状です。かつては1錠10円程度のものが多かったのですが、いまはいちばん高価なタイプで1錠250円くらいになっています。

 新しく開発される降圧剤の傾向は、長時間にわたって効果を持続させ、これまで1日3回飲んでいたところを2回または1回で済むようにするタイプがひとつ。また、血圧が高いことによってダメージを受けるのは心臓と腎臓なので、それらにダメージを与えにくくする保護効果があるタイプの開発が進められています。

■古くても優秀で安価なタイプはたくさんある

 血圧を下げる効果自体もどんどん良くなってきています。降圧剤の効果を研究した論文で数値の改ざんが発覚して大問題になった「ディオバン事件」のようなこともありましたが、ディオバンそのものはとても良い薬で、心臓機能が悪い方の日常生活を高めることに役立っています。

 そうした優秀な降圧剤が次々に開発されるのは、日本の場合は対象人口が多いからでしょう。薬の投与数が多ければ多いほど製薬会社は開発費をかけられますし、服用している人が多い分だけ副作用の調査もしやすくなります。プラスアルファの効果が期待できる新しい薬を開発しやすい環境が出来上がっているのです。降圧剤はとくにそうした傾向があります。

 もちろん、古くてもよく効く安価で優秀な降圧剤もたくさんあります。降圧剤は基本的にずっと飲み続けなければならない薬なので、薬代が負担になっている人はもっと安いタイプに変更したいという希望を担当医に相談してみるのもいいでしょう。

 ただし、自己判断で変更するのは危険です。とりわけ降圧剤は、血圧を急激に下げるのではなく、最低でも1カ月、多くは2カ月くらいかけて段階的に正常なゾーンまで下げていくのが一般的です。血圧の変動に臓器が付いてこれなくなってトラブルが起こりやすくなるからです。さらに、ほかに併用している薬との相互作用も考慮しなければなりません。降圧剤は種類によって作用機序が異なるので、薬の組み合わせによっては効果や副作用の表れ方も変わってしまいます。

 ですから、いま飲んでいる降圧剤が高いから変更したいと思ったら、必ず担当医に相談して、どの薬がいいのかを判断してもらう必要があります。

 また、いきなり服用を中止するのもNGです。患者さんから「血圧が改善したらやめてもいいんですか?」と聞かれることも多いのですが、勝手にやめてはいけません。

 数値が改善したからやめてもいいケースというのは、たとえば血圧が高い原因が高度肥満にあって、その肥満が完全に解消された……といった場合です。ただ、血圧に異常を来すほどの極端な高度肥満を正常にするためには、よほど特別なダイエットでもしない限りはほぼありえません。

 高度肥満に限らず、体に何らかの原因があって血圧が上昇しているわけで、その原因を完全に解消するのはかなり難しいと言えます。薬を飲んでいることで正常な血圧を維持できているんだと考えてください。

 逆に降圧剤が効きすぎて血圧が下がりすぎているケースも少なくありません。降圧剤は何種類かを組み合わせて飲んでいる患者さんも多いので、予想以上に効きすぎてしまう危険があるのです。

 血圧が下がりすぎてしまうと、脳に血液が届かなくなり、めまいやふらつきが起こって転倒したり、ひどい場合は失神や脳の機能不全を招くこともあります。

 効きすぎを防ぐには、毎日、起床時と就寝前に自分で血圧を測って状態をチェックすることが基本です。薬を飲んで体調に変化があったときも血圧を測定し、異常があるようなら医師に相談して薬の量を減らす対処をしなければなりません。

 医師の指示で薬を飲むことは大切ですが、それに加えて自分でもしっかりチェックしながら対処するのが降圧剤と正しく付き合う方法です。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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