今からでも遅くない “正月脂肪肝”を無理せず解消する方法

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 正月休み明けのこの時着は「体が重い」とこぼす人が多い。それが怖いのは体重が少し増えただけでも簡単に肝臓に脂肪がたまる脂肪肝になるからだ。放っておくと命に関わる重大病を含めた、さまざまな病気を誘発しかねない。どうすればいいのか? 国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授に聞いた。

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 脂肪肝とは、食べ過ぎや運動不足で体内で消費しきれなかった糖質や脂質が中性脂肪となり、それが肝臓にたまって肝臓全体の30%以上を占める状態をいう。2~3㌔体重が増えただけでも肝臓に脂肪がつくといわれ、この時期多くの中高年は「正月脂肪肝」になっている可能性がある。

「お酒が弱い人は特に注意が必要です。酔いやすい人は、お酒を飲まなくても脂肪肝になりやすいことが報告されています。脂肪がたまっているだけの軽度の脂肪肝なら比較的簡単に解消できますが、中性脂肪がたまって肝細胞が膨らみ細胞死を起こすと、そうはいきません。その後始末に貪食細胞などが集まってきて炎症が起きて脂肪肝炎を発症すると肝臓の線維化が進み、肝硬変や肝がんになる恐れがあります」

■体重を2~3キロ落とすだけで改善

 脂肪肝には大量の飲酒が原因のアルコール性脂肪肝と、それ以外が原因の非アルコール性脂肪肝がある。後者に属する非アルコール性脂肪肝炎を発症すると10年後には約1~2割が肝硬変となり、そのうち2~3%が毎年肝臓がんを発症するといわれている。

「そこまでいかなくても肝機能低下から動脈硬化が進み、狭心症や心筋梗塞、高血圧を発症しやすくなったり、肝臓などに作用して血糖値を低下させる働きのあるインスリンが効きにくくなり糖尿病を発症しやすくなります。だからこそ、早い段階で正月脂肪肝は退治する必要があるのです」

 脂肪肝解消の基本は体重を元に戻すことだが、中高年が一度身についた脂肪を解消するのは難しい。基礎代謝が日々低下していくからだ。かといって寒いなかジョギングなどの本格的スポーツは御免こうむりたい。食べたいものは食べたいし、食事の量も減らしたくない。ならば食べ方を変えるのも手かもしれない。

「脂肪肝だけなら体重を2~3キロ落とすだけで改善されます。まずは1カ月に1キロ落とすことを目標にしましょう。それには、決まった時間に起きて太陽光を十分浴びて、しっかり朝食をとることです。食事中はひと口30回の咀嚼を心がけ、ご飯やおかずを流し込まないよう水やお茶は食後に飲む。そうすれば効率的にやせられるうえ、食事量を減らせながら満腹感も得られます」

「やせたいなら、手っ取り早く朝食を抜けばいいのでは?」と思う人もいるかもしれないが、間違いだ。

 米国ミネソタ州の公立学校に通う子供2万2222人を対象に5年間追跡調査した研究では、朝食を毎日食べる人の方がまったく食べない人よりもBMI(体格指数)が明らかに低かったという。理由は朝食抜きの生活をする人は夜遅くになってたくさん食べるからだと推察される。それは体内時計の狂いが原因かもしれない。

「私たちの体内には『体内時計』と呼ばれる1日のリズムを刻むメカニズムがあります。そのために多くの時計遺伝子が存在しています。メインの時計遺伝子は、両耳の中間付近で網膜の奥にある視交叉上核にあり、サブ時計遺伝子は胃や腸、肝臓や腎臓、皮膚や血管などに散らばっています。メインの時計遺伝子は1日を24・5時間、肝臓は23時間などと臓器ごとにそれぞれが違った時間で動いています。これをリセットするのが朝日と朝食なのです」

 朝日を網膜が感じ取るとその刺激を視交叉上核が受け取る。そこから体中のサブ時計遺伝子に指令を出して、体のすべての組織の体内時計をリセットさせる。朝食は1日のエネルギーを作り出す源以外に体内時計のリセットを補完する働きもあるという。その朝食を抜くことは体内時計のずれを放置することにほかならない。

「正月太りが怖いのは単なる食べ過ぎ、飲み過ぎだけでなく、乱れた食生活により体内時計が大幅にずれている可能性があることです。それをただすには決まった時間に朝食をとるだけでなく、夕食を早めにとること、朝食までの断食時間を長くすることです」

■1日30分以上続けて歩くだけでも効果が

 この断食時間が長いほど、朝食による体内時計リセット効果があらわれる。そのために寝る前3時間以内は食べてはいけないという。

「この習慣のない人はこれだけを徹底するだけでやせることが期待できます。朝食は時計遺伝子を動かす力を上げるためにしっかり食べ、逆に夕食は炭水化物を抑えましょう。よくご飯をしっかりとらないと食べた気がしないという人がいますが、それは単に習慣で食べたくなっているからにすぎません。『本当に食べたいのか?』と自問して10分間ほど我慢すれば大抵は食べずに済みます。10日間くらい我慢して食べずにいれば、その後空腹感はある程度解消できるはずです」

 食事で注意したいのはご飯を抑えるぶん、肝臓に良いからとホウレンソウやレバー、しじみやウコンなど鉄分の多い食材を過剰にとることだ。フリーラジカル(活性酸素)を発生させ、肝細胞を傷つけて炎症を起こしかねない。

「日々の食事内容を記録するのも効果があります。無意識のうちに食べる量を減らすことにつながります」

 もちろん、運動も重要だ。ただし、水泳やマラソン、ジョギングなどの本格的なスポーツは必要ない。筑波大学の研究では1日30分以上続けて歩くだけでも脂肪肝解消に効果があったという。

 脂肪肝解消で大事なのはストレスをかけて一気に改善しようとせず、無理せずできることを長く続けることだ。

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