独白 愉快な“病人”たち

虫垂が肥大して…川浪ナミヲさん手術は腹腔鏡から開腹へ

川浪ナミヲさん
川浪ナミヲさん(C)日刊ゲンダイ

 いまどき、盲腸の手術で4時間もかかるなんて考えられます? 駆けつけてくれた家族が「本当に盲腸ですか?」と医者に確かめたくらい大ごとになりました。

 2016年の後半あたりから、お酒を飲むと胃の辺りがシクシクして、調子が悪かったんです。でも、1~2日で治まるので、年のせいでお酒に弱くなったんだと思っていました。

 異変は17年2月。仕事で長野を訪れたとき、昼間から例の痛みがあって食欲がなく、夜になると熱が出て、痛みがどんどん増してきました。脂汗が出るほどの痛みに、ボクは「これか! いまはやりの胃腸にくる風邪は」と思い込み、周りに感染するといけないからとホテルからタクシーで救急病院へ行きました。

「たぶん風邪だと思う」と医師に告げると、触診をしながら「川浪さん、これは間違いなく盲腸ですね」と言われました。検査後、正式に「虫垂炎」と診断されて、そのまま入院、翌日、手術の運びとなりました。破裂寸前だったようです。

 いまどきですから腹腔鏡手術だったんですが、途中から開腹手術に変更になりました。虫垂が肥大しすぎていて、ほかの臓器と癒着しかけていたんです。術後、取り出したものを見せてもらったら、赤ん坊の拳ぐらいの大きさでした。正常なら小指の先ぐらいしかない臓器ですから、「こりゃ腹腔鏡じゃ取り出せんな」と納得しました。

 医師によると「腸や虫垂には痛みを感じる神経がないから、胃が痛いんだと錯覚するんです」って。だから、たぶんボクは、半年間ほど虫垂炎を自力で散らしながら生活していたんです。

「なるべく早く帰りたい」と病院に懇願し、糸が付いたまま5日目に退院しました。医師の説明では「糸は付いていますが、傷は塞がっているので、入浴も大丈夫」とのことでした。なので、神戸の自宅に戻って、そりゃ、お風呂に入りますよね。

■術後感染症で1カ月の再入院

 でも、1週間もすると傷口がシクシク痛みだしたんです。見ると、赤くパンパンに腫れあがっている。素人目に見ても膿んでいるのが分かり、地元の大きめの病院へ行くと、「術後感染症です。これはちょっとかかりますよ」とのこと。細菌感染による化膿でした。表から消毒するだけではダメで、一度傷を開いて腹膜の中まで調べられました。結果、奥まで菌は到達していなかったのですが、しばらく入院して、毎日傷口を開けて消毒する必要があると言われたのです。

 それでも、頼み込んで近所の町医者に「通院」することで、よしとしてもらいました。ところが町医者に行くと「これは入院せなあかんやつや」と言われ、すぐさま診てくれた医師に電話をかけて叱り付け、病院に送り返されました。

 入院して菌がゼロになるまで約2週間、抗生物質を点滴しました。それで退院かと思ったら、そこからさらに10日間入院でした。形成外科へ回されて、また手術しなければならなかったんです。 消毒が必要だった間は傷口が塞がらないようにしていたので、肉が再生して盛り上がっていました。要は、デコボコした部分をそぎ、新しい切り口を出して、くっつける手術をしたんです。

 術後は傷口を真空にして密着させる「陰圧閉鎖療法」という治療が行われました。聞くところによれば、最先端の治療らしいのですが、専用のパッドを患部に貼り、管でつながっている小さな箱を経由した手動の吸引装置でシュパシュパと空気を抜くという原始的なものでした(笑い)。10日間の入院の後も、2週間ぐらいはその箱をぶら下げる生活。盲腸よりも、術後感染症の方が何倍も大変でした。

 なんだかんだトータルほぼ1カ月の入院生活。でも、それまでがせわしなかったので、精神的には自分を見つめ直すいい時間でした。つらい病気の人には不謹慎なことかもしれませんけど、神様仏様が「ちょっと休みぃ」と言ってくれたのかなと思います。

 振り返れば、盲腸でよかったと心から思いました。もし、ほかの病気でも、きっと我慢して病院に行かずにいただろうと思うから……。いまはもう“調子が悪かったら病院へ行こう”と心を入れ替えましたけどね。

 そうそう、神戸で再入院した頃、当時、中学2年だった次男も盲腸になったんです。医者いわく「よくある」とのことでした。科学的にはなんら証明されてないけど、家族や親しい人に盲腸が連鎖する事例は、珍しいことではないらしいです。

 それほど家族に心配かけてしまった割に、生活はあまり変わっていません。お酒はやめるべきだと思っていても、やめる自分が想像できない。たばこはもちろん、やめられない。腹回りの肉も片づけたいけれど、ご覧の通りです(笑い)。

(聞き手=松永詠美子)

▽かわなみ・なみを 1972年、兵庫県生まれ。95年に「劇団赤鬼」の旗揚げに役者として出演し、その後、脚本・演出も担当する。松竹新喜劇をはじめ外部演出・プロデュースを手掛けるほか、ラジオパーソナリティー、テレビドラマ脚本、イベント司会など多彩に活躍。3月15日から4月にかけては演出を手掛けた舞台「トリッパー遊園地」が上演される(東京・新橋演舞場ほか)。

関連記事