休職させない精神科医療

「3カ月の休職」はサラリーマンには“百害あって”一利なし

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 厚生労働省の平成29年労働安全衛生調査によると、平成28年11月1日から29年10月31日の間に、メンタルヘルス不調によって連続1カ月以上休業した労働者の割合は0・4%。特に、情報通信業と金融業・保険業では1・2%と、100人に1人を超える高い割合で、1カ月以上の休職者が現れている。

 うつ病によるサラリーマンの休職は、いまや日本経済を危うくする最大の不安要素のひとつと言っていい。この4月から、働き方改革関連法が施行されたが、今後効果がどのくらい表れるかは未知数。それどころか、平成から令和に変わる際の10連休で、うつになる人が増えてしまった可能性もある。そんな推測を語るのが、「独協医科大学埼玉医療センター」(埼玉県越谷市)こころの診療科教授の井原裕医師(顔写真)だ。

「10日間も仕事がなかったわけで、一人暮らしの人の場合心配です。誰かと会う機会があったのならいいのですが、そうでないと引きこもって孤独な生活が続いたかも。心の健康にとって、①起床・就寝リズムの乱れ②運動不足③孤独の3つはリスクになります。単身&無職の人はこのリスクにさらされがち。大型連休はそれを助長したはずです。私の外来は予約制で、数週間は待たされるので、連休でうつになった人はまだ受診していません。でも、これから増える可能性はあると予想しています」

 働き方改革では、いま懸命に残業を減らしているが、過労ではなく、休み続けることでうつが発生するリスクもあると井原医師は説く。「休めばうつは治る」というこの固定観念に、実は問題がある。さらには、うつ病患者がよく指示される「3カ月程度の休職」は、長すぎてそれ自体が二次災害的にうつを悪化させ、サラリーマンのキャリアに深刻な影響を及ぼすことすらあるというのが、井原医師の持論なのだ。

「休むことで得られる利益はたちまち頭打ちになり、逆に損失は日に日に大きくなる。あるポイントで損益が逆転します。その前に復職させないと悪化の一途をたどる。そのポイントは3カ月なんかじゃない。もっと早いはず」

 精神科や心療内科ではサラリーマンがうつ病と診断されると、「3カ月の休職を要する」という診断書が出されるケースが多くある。診断書を会社に提出し、3カ月の間、自宅で休んでもうつ病が回復しないと、さらに3カ月の休職延長がなされる。この「3の倍数の休職」が、日本経済に多大な損失を与えていると、井原医師は警鐘を鳴らす。

「厚労省の研究班によると、うつ病で休職した社員の約半数が復帰後に病気休暇を再取得したとある。これをもってこの研究班は、復職をもっと慎重にせよと主張しているのですが、それはとんでもない誤りです。慎重にすべきなのは、復職じゃなく、最初の休職のほう。長く休ませても、うつが回復しないのなら、百害あって一利なし。休職をもっと短くするか、最初からしないかでしょう」

 それでは、うつ病になってしまった会社員は、休職以外のどのような手段で回復を目指せばいいのだろうか。井原医師は、「働きながら回復する」治療スタイルを提言する。

(フリージャーナリスト・里中高志)

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