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プロが集結し慢性痛に対応 慶大病院「痛み診療センター」

小杉志都子センター長
小杉志都子センター長(提供写真)

 日本人の6人に1人が悩まされているとされる「慢性痛」。しかし、長引く体の痛みの原因は、何かひとつの病気や障害に限られるわけでもない。そのため特定の診療科に通っていても、なかなか良くならない、痛み止めを飲んでも効かない、と諦めている人は多い。

 そんな慢性痛に対して、多角的な視点(集学的治療)で痛みの緩和を行っている診療部門がある。昨年6月に慶応大学病院に開設された「痛み診療センター」だ。診療に当たるのは、麻酔科、リハビリ科、整形外科、精神科を中心とした複数の診療科の医師。どのような理由から開設されたのか。小杉志都子センター長が言う。

「痛みは同じ疾患が原因でも、さまざまな要因が重なって慢性化していて、それも患者さん一人一人で違います。例えば腰痛で、ブロック注射をしただけでは不十分で、本当は体を動かしてもらった方がいい場合があります。それには、どんな運動をどの程度すればいいのか、それも患者さんによって異なり、疼痛専門の理学療法士が指導した方がいい。このように痛みの要因に合わせた治療を行うには、複数の診療科の専門知識を集約した体制が必要だったのです」

 同センターには1日50~60人が受診していて、その患者の大半は60代以上。慢性痛の原疾患では脊柱管狭窄症やヘルニア、圧迫骨折、腰椎すべり症などの脊椎疾患が7~8割。残りは頚肩腕痛、帯状疱疹痛、口腔顔面痛、原因不明の慢性痛などだ。

 痛みそのものを緩和する治療では、「神経ブロック(注射)」、脊椎の神経が通っている空間に特殊なカテーテル(細い管)を入れて癒着をはがす「ラクツカテーテル法」、脊髄を電気的に刺激して痛みを和らげる「脊髄刺激法」などが、麻酔科と整形外科の医師によって行われている。

■従来の治療に「運動」と「心理療法」をプラス

 そして、同センターの治療で特徴的なのは、必要な患者に処方されている「運動療法プログラム」と「マインドフルネス(心理療法)」だ。運動療法はリハビリ専門医と理学療法士が担当し、トレーニングマシンなどを使った週2回(1回40分)、2カ月間のプログラムが組まれている。

「慢性痛の患者さんでは、痛みによって日常生活の正しい動作が困難であるために、痛みをカバーするような動作(代償動作)が習慣化して、かえって痛みを増加させてしまっている人が多くみられます。その筋肉が硬くなったり、バランスが崩れていたりしている状態によって起きている痛みの悪循環を、運動療法によって筋肉の緊張をほぐすことで断ち切るのです」

 マインドフルネスは精神神経科医や臨床心理士が担当し、プログラムは週1回2時間、全8回で構成されている。内容は簡単な瞑想やヨガ、呼吸法などのエクササイズを行い、心身の安定を目指す。それを習得して日常的に行うことで、痛みのセルフコントロールに役立てるのだ。

「慢性痛では実際の体の痛み(1次的痛み)に不安や気分の落ち込みといったネガティブな感情が加わると、2次的痛みとして苦痛が生じることが知られています。認知行動療法であるマインドフルネスは、痛みに対する受け止め方や姿勢を変えることで、不安や気分の落ち込みを改善し、2次的痛みを取り除く効果があるとされています」

 ただし、運動療法プログラムやマインドフルネスは、患者自身が主体性を持って積極的に取り組まないと十分な効果は見込めないという。また、同センターは慢性痛のすべての痛みに対応できるわけではない。疾患によっては対象外になる場合もあるという。

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