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がんゲノム医療 保険適用された遺伝子パネル検査が本格始動

遺伝子異常を一気に調べる「次世代シークエンサー」(左は加藤俊介教授)
遺伝子異常を一気に調べる「次世代シークエンサー」(左は加藤俊介教授)/(提供写真)

 がん患者の遺伝子変異を調べ、その情報を基に患者に合った効果的な治療薬を探す「がんゲノム医療」。今年6月から、多数のがん関連遺伝子を一度に調べる「がん遺伝子パネル検査(以下、パネル検査)」が保険適用になったことで本格的に始動した。

 国内では、これまで数種類のパネル検査が先進医療(臨床研究)や自由診療で行われてきたが、今回保険適用になったのは「シスメックス」と「中外製薬」の2社が販売する検査製品だ。

 シスメックスの製品「NCCオンコパネル」は国立がん研究センターと共同開発したもので、日本人で変異が見つかりやすい114種類の遺伝子を調べる。中外製薬が扱う「ファウンデーションワン」は米国で開発された製品で、すでに世界60カ国で使われ、324種類の遺伝子を調べる。

 どちらも公定価格は56万円で、患者負担は最大で3割(16万8000円)となる。

 パネル検査が受けられる医療機関は、がんゲノム医療中核拠点病院と、その連携病院に限られる。では、実際の臨床では2つのパネル検査は、どのように使い分けられるのか。連携病院に指定されている順天堂大学医学部付属順天堂医院・腫瘍内科の加藤俊介教授が言う。

「保険診療でパネル検査を行う場合、どちらを使うかは基本的には主治医の判断です。違いをいえば、NCCオンコパネルは正常細胞とがん細胞の両方を比較して厳密にがんによる遺伝子変異を調べます。一方、ファウンデーションワンはがん細胞の遺伝子変異しか調べませんが調べる遺伝子数が多く、グローバルスタンダードの検査法です。ただ、国内で使える薬(承認薬)の数からいえば、保険診療なら114種類の遺伝子を調べるだけで十分とされています」

 確かに「次世代シーケンサー」という一度に多くの遺伝子異常を調べられる解析装置が開発されたことで、パネル検査の実施が可能になった。しかし、この検査技術の進歩に治療薬の開発が追いついていないのが現状だ。パネル検査で遺伝子異常が見つかっても、最終的に治療薬にたどりつくのはごく一部の患者とされている。

 順天堂大学では2016年から、米国で開発された468種類の遺伝子を調べる「MSK―インパクト」というパネル検査を自由診療(60万~70万円)で実施してきた。そのパネル検査の海外の1万人データ(17年)によると、治療薬にたどりついたのは38%。そのうち承認薬が7%、適応外使用の薬が11%、治験中の薬が18%とされる。順天堂大学が60人に実施したうち治療薬が見つかったのは2人。うち1人は米国の拡大治験に参加、1人は自由診療で治療を受けている。

■海外例では薬にたどり着くのは38%

 2種類のパネル検査が保険適用になったが、自由診療のパネル検査も継続して受け付けている。

「保険診療のパネル検査は、標準治療を受けたが効かなかった場合、または希少がんなど標準治療がない場合と、ある程度進行した患者さんが対象です。しかし、検査結果が出るまで1カ月くらい時間がかかってしまう。自由診療のパネル検査は、手術をした時点で検査を開始できるので、再発したときに使える薬があるかどうか、事前に調べておくことができるのです」

 いずれにしても、使える薬が見つかるのは少数。厚労省は、薬の適応外使用や未承認薬を自費で使える「患者申出療養」制度の整備を進めているという。

 がんゲノム医療はスタートしたばかりで道半ば。普及はもう少し時間がかかりそうだ。

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