進化する糖尿病治療法

「今日の検査、異常なし」より「予想より悪い」がいい理由

血管年齢のチェックも大事
血管年齢のチェックも大事(C)PIXTA

「今日の検査結果は異常なし。本当によかったです」

 外来を受診した患者さんから、こんなふうに言われることは珍しくありません。

 何らかの生活習慣病を抱えていたり、数値の異常を疑っていたりで病院に来ているわけですから、検査結果が出るまでは少なからず不安を抱えておられるのでしょう。ひと安心した表情。当院は、飲食店が立ち並ぶ新橋や銀座にも近いですから、「おいしいものを食べて帰ります」とおっしゃる患者さんもいます。

 しかし、「外来で検査を受けて異常なし」の理由だけで安心するのを私はあまり良しとしていません。むしろ要注意と考えています。

 糖尿病で治療を受けていて、定期的に外来を受診している患者さんでも、その頻度は数カ月に一度です。HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)、血糖値、中性脂肪、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)などが“今回は”よくても、検査時以外はどうか? もし検査結果に安心し、新橋の大衆居酒屋でビール片手に焼き鳥を食べ、シメにラーメンを食べたら……。

 基準値内だった中性脂肪が、検査結果が出たほんの数時間後にはぐんと上昇しているかもしれないのです。

 理想的なのは、「今回の検査では数値がもう少し下がるはずだったのに、予想より高かった。おかしいな」と考えられる患者さん。これはつまり、普段から自宅で数値をチェックしているということです。血液検査で分かるHbA1cや中性脂肪、LDLコレステロールなどは病院でしか調べられませんが、体重や血圧などは自宅でも測定できます。自分の体がどうなのかを普段から管理し、病院では“確認作業”をする。これが、正しい病院の利用法だと思うのです。

 医師は、病気の治療はできます。しかし、患者さんの体の老化を食い止めることはできません。病院に定期的に通い検査を受けていても、それはピンポイントでの確認でしかない。数値を線でつないで確認するのには、病院は適していません。 長い期間のうちに主治医がかわることもあれば、患者さんの引っ越しや転職など生活環境の変化で通う病院がかわることもあるでしょう。そもそも大病院では、いつも同じ医師に診てもらえるとは限らない。今日の検査結果が基準値範囲内であっても、生活習慣を改善したことによる基準値範囲内なのか、基準値範囲内ではあるけど徐々に数値が上昇してきているのか、確実にチェックできるのは、自分しかありません。

 私が考える「病院の正しい利用法」を具体的にお話ししましょう。今は、体重に加えて、体脂肪率、内臓脂肪レベル、筋肉量、基礎代謝なども測定できる体組成計が売られています。

 数千円なので、健康維持の投資と考えれば決して高くありません。

 健康維持のために自分の体を管理するのに最も重要なのは、毎日継続して体組成計で測定すること。体脂肪率などを正しく測定するポイントはいくつかありますが、それはいったん横に置いといて、どうすれば自分が毎日測定できるかを考えましょう。

 私は患者さんに、「お風呂場の脱衣所に体組成計を置いておくといいですよ」とよくお勧めしています。お風呂はたいてい毎日入る。その時に服も脱ぎますから、ついでに体組成計に乗ればいい。数値を毎日メモしておくとベスト。ただし、メモが面倒で体組成計に乗らなくなるようなら、メモしなくても、自分の頭にしっかり刻んでおくので構いません。

 さらに血圧も測れればよりいい。しかしこれも、面倒で三日坊主になりそうなら、まずは体組成計でのチェックを続けられるようにしてください。また、ご家族と一緒にチェックするのもいいでしょう。

 そして病院では、自宅では測定できない血管年齢のチェックをする。血管年齢は、心臓足首血管指数(CAVI)、脈波伝播速度(PWV)、足関節上腕血圧比(ABI)のいずれかで調べられます。動脈硬化の疑いがあるなら保険適用で数百円。自費で受けても5000円前後です。もし、体組成計の結果などをメモしているようなら、それを持参し、医師に見てもらうのもいいでしょう。

 自分の体は自分で守る。この意識は絶対に必要です。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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