性感染症最前線

A型肝炎<1>性交で感染するがコンドームでは予防できない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 アジア、アフリカ、中南米などの発展途上国へ旅行する時に、注意したい感染症のひとつに「A型肝炎」がある。その感染経路は、感染者の大便に含まれるA型肝炎ウイルス(HAV)に汚染された水や野菜、魚介類などの生食による経口がよく知られている。日本でも昔は、くみ取り式便所から地面に吸収されたウイルスが井戸水に入り感染源になったり、その後は二枚貝などの生食が主な感染源になったが、今は衛生管理が進み、汚染された飲食物を介した感染は減りつつある。

 一方で近年、欧米や日本などの先進国で急増しているのが、性感染症としてのA型肝炎だ。どういうことなのか。

 性感染症専門施設「プライベートケアクリニック東京」(新宿区)の尾上泰彦院長が説明する。

「HAVは大便中に排泄されるので、糞を介して感染します。ですからアナルセックスや肛門をなめる行為(リミング)、肛門を触れたペニスや指をなめるなどすることで感染します。どの国でも最もリスクが高く、流行の主体となっているのは男性同性愛者(MSM)間での性的接触です」

 A型肝炎は急性肝炎で、B型やC型肝炎と違って慢性化することはほとんどない。感染から症状が出るまでの潜伏期間は2~7週間で、急な発熱、全身のだるさ、食欲不振、吐き気や嘔吐などが起こる。加えて、皮膚や目の白い部分が黄色くなる「黄疸」が表れるのも特徴だ。

 治療法は、抗ウイルス薬などの特効薬はなく、基本的には入院して対症療法を行いながら、1カ月ほど安静にしていればほとんどは自然回復する。ただし、まれ(0.5%前後)に高率で死に至る劇症肝炎に移行する危険性がある。高齢者や腎臓が悪い人、糖尿病の人などは注意が必要だ。

「幼児がHAVに感染しても症状がないか軽症の場合がほとんどです。一度感染すると終生免疫ができて再感染することはありません。A型肝炎は戦前は日本でも常在化していたので、団塊の世代(1947~49年生まれ)より前に生まれた人は、ほとんど免疫を持っています。免疫を持たない中高年者が感染して発症すると重症化しやすいのです」

 A型肝炎は性感染症といっても、コンドームの着用は予防にならない。しかし、ワクチン接種で予防が可能。3回の接種(初回、1カ月後、6カ月後)でほぼ100%免疫が獲得でき、その後の追加免疫の必要はないという。MSMの人やHAVが常在化する国へ渡航する人は、ワクチン接種をしておいた方が安心だ。

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