性感染症最前線

B型肝炎<1>1割が慢性肝炎に移行…欧米からの新型が増加中

昔は注射器の使い回しが原因のひとつだった
昔は注射器の使い回しが原因のひとつだった

 B型肝炎ウイルス(HBV)は、感染者の血液が他人の血液に入ることで感染する。しかし、血液中のHBV量が多い場合は、精液や唾液などの体液を介して感染することもある。昔は幼児期の輸血や集団予防接種における注射器の使い回しの感染、母子感染、外科医の手術時の感染などが多かったが、検査体制が確立した現在では、ほとんど見られなくなった。薬物使用による注射針の共有は別として、いま一般的に注意しなくてはいけないのは、性感染症としてのB型肝炎だ。

 B型肝炎には「急性」と「慢性」がある。急性B型肝炎は成人が初めて感染して発病したもの。全身のだるさ、食欲不振、悪心、嘔吐、黄疸などが出現するが、劇症化(1%以下)しなければ対症療法でほとんどの人は完治する。一方、慢性B型肝炎はHBVに持続感染している人(キャリアー)が発病したもの。自覚症状が出ないことが多く、放置すると肝硬変、肝がんに進展する恐れがあるので要注意だ。

 出生時や免疫低下状態での感染では持続感染しやすいが、免疫系が発達した成人が感染してもほとんどキャリアー化しないといわれてきた。ところが近年は、成人の感染でも慢性化する場合があるという。どういうことなのか。性感染症専門施設「プライベートケアクリニック東京」(新宿区)の尾上泰彦院長が言う。

「今まで日本で広まっていたHBVは『遺伝子型BやC』というタイプでした。それが最近はグローバル化に伴い欧米から『遺伝子型A』のHBVが入ってきて、性感染症として都市部の若者を中心に急速に広がっているのです。遺伝子型Aは、大人で感染しても約10%が慢性肝炎に移行するといわれます。対策によって減少したはずの慢性B型肝炎が、再び増加する可能性があります」

 HBV感染は異性間性交渉でも見られるが、特に遺伝子型Aは男性同性愛者(MSM)間の感染が中心になっているという。また、HIVとHBVの重複感染も多い。国内の調査ではHIV感染例の6.4%がHBVキャリアーで、うち遺伝子型AのHBVが占める割合は70%台とされる。

 B型肝炎の予防はコンドームの使用も有効だが、HIVなどに比べて感染力が強く、唾液中にウイルスが含まれる場合もある。最も効果的なのはワクチン接種だ。

「HBVワクチンは3回接種(初回、1カ月後、6カ月後)が基本です。特定のセックスパートナーがHBVキャリアーと分かっている人、複数のセックスパートナーを持つ人、MSMなどの人にはワクチン接種を勧めます」

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