心臓の筋肉に問題が起こることで心臓が広がりにくくなったり、逆に縮まりにくくなってポンプ機能が低下し、心不全を招く「心筋症」について、これまで何度かお話ししてきました。心不全が重症化すると、急に激しい動悸や不整脈に見舞われ、突然死を招くケースもある深刻な疾患です。心筋にトラブルが起こる原因は、ウイルス感染がきっかけになるケースが多いといわれていますが、はっきりしたメカニズムはまだわかっていません。近年、そうした原因のひとつとして研究されているのが「心アミロイドーシス」です。
アミロイドという異常蛋白が全身のさまざまな臓器に沈着し、それぞれ機能障害を起こす病気を「アミロイドーシス」と呼んでいて、それが心臓に起こった場合が心アミロイドーシスになります。
心臓にアミロイドが沈着すると、心室の壁が厚くなる心肥大を来して心臓が広がりにくくなり、病状が進むと今度は縮まりにくくなります。そうなると、ポンプ機能が著しく低下して全身に十分な血液を送り出せなくなり、重度の心不全が起こります。心原性脳梗塞の原因になる心房細動や心室細動などの致死性不整脈も起こしやすくなり、非常に予後が悪い疾患といえます。
アミロイド蛋白にはたくさんの種類がありますが、心アミロイドーシスの原因になるのは、主に「イムノグロブリン遊離L鎖」(AL型)と「トランスサイレチン」(ATTR型)の2タイプです。ALは免疫に関係する形質細胞の異常増殖や、自身を攻撃してしまう抗体の異常産生が原因で起こり、血液のがんである多発性骨髄腫を伴うケースが多く見られます。
ATTRは肝臓で合成されるTTR蛋白の働きが障害されることで起こり、遺伝子変異による「遺伝性」と、加齢に付随する「老人性」の2種類があります。いずれも、放置していると1年程度で突然死を招くリスクが高くなるため、早期発見して治療を始めることがとても重要です。
最近は深刻な心臓疾患のひとつとして循環器内科が診るケースが増えてきています。アミロイドーシスが疑われる場合は、レントゲン、採血、心電図、心エコー、心臓MRIなどの検査を行い、心筋生検によって診断が確定されます。カテーテルで心臓組織の一部を採取し、顕微鏡で観察してアミロイドが沈着しているかどうかを調べるのです。
■対症療法が中心だが新たな治療法も登場している
ほかの疾患が原因になっているケースを除くと、根本的な治療はまだ確立されていないのが現状で、対症療法が中心です。心不全の症状があれば、利尿剤、β遮断薬、ACE阻害薬、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)などの薬物治療を行うのが一般的です。最近は免疫抑制治療と末梢血幹細胞移植を組み合わせる有効な治療法も登場しています。
こうした新しい治療をより有効活用するためにも、何より大切なのが心アミロイドーシスを早期発見することです。心筋はいったんダメになると元には戻らないので、いかに病状が軽い段階で治療を始められるかがカギになります。
現在は心エコー検査が正確になってきたので、心肥大患者さんでアミロイドを示すエコー所見が認められた際には、複数の診療科で対応していく必要があります。
アミロイド蛋白が尿中に出てくれば血液内科や腎臓内科が診るといった具合です。一般的な生活習慣病では開業の先生をかかりつけ医として持つことが大切ですが、この病気では高度医療を行える専門医と緊密な医療連携を持っているかかりつけ医を選ぶことが大切になってきます。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」