Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

緩和ケアには延命効果 病棟の順番待ちを諦めてはいけない

見過ごせない延命効果
見過ごせない延命効果

 緩和ケア病棟を予約したが、順番を待っている間に親が亡くなってしまった……。

 最新の統計によると、2017年にがんで亡くなった方は、約37万人です。ところが、日本ホスピス緩和ケア協会によれば、主に終末期の方を受け入れるホスピスや緩和ケア病棟の累計病床数は8646。緩和ケア病棟は、受け入れ体制が十分でないのが現状で、残念な結果を招くことがあります。

 がんの肉体的、精神的な苦痛を和らげる緩和ケアは、がんと診断されたときから必要です。がん対策基本法によって最も強化されたのが緩和ケアでしたが、その力点は早期からの緩和ケア、診断時からの緩和ケアとしたため、終末期の緩和ケアが手薄になった可能性は否定できないでしょう。

 終末期への配慮を欠いていることは、昨年改定された緩和ケア病棟の入院料を見れば明らかです。細かい金額は省きますが、改定前は1段階だった基準が、改定後は2段階になりました。診療報酬が高い病院と低い病院があるわけです。その区分けを決めるのが、2つの基準です。

●すべての患者の入院日数の平均が30日未満で、患者の入院意思表示から平均14日未満で入院させている。

●患者の15%以上が在宅や診療所に退院する。

 厚労省としては、最初の基準設定によって待ち時間を短くして回転率をよくし、順番待ちの解消を狙ったのでしょうが、実際は違います。なるべく入院希望の意思表示を出すのを遅らせたり、保留させたりした上で、できるだけ退院してもらうようにする施設が少なくないのです。

 なぜか。そうやって2つの条件をクリアすれば同じ人に同じ治療をしても、より高い診療報酬を請求することができますから。これが、順番待ちの問題に影響していると思います。今の基準は問題でしょう。

 転移のある肺がん患者151人を対象に、抗がん剤治療を行うグループ74人と抗がん剤治療に加えて緩和ケアグループに分けて、症状や生存期間を比較。すると、緩和ケアグループは、緩和なしグループに比べてうつ症状が有意に少ないばかりか、生存期間が3カ月上回っていたのです。

 緩和グループは、治療開始から3週間以内に緩和ケアチームが患者に面談。その後は月に1回以上、痛みの治療や精神的なケアを行っています。

 3カ月の延命効果というとわずかと思うかもしれませんが、終末期の方を対象とした研究だけに決して小さくありません。緩和ケアに延命効果があることを純粋に注目すべきでしょう。

 病棟の順番待ち問題の解決はすぐには難しいですが、緩和ケアは在宅でも受けられます。諦めることなく、在宅で診てもらえるかかりつけ医の治療を受けながら、順番を待つのが無難です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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