後悔しない認知症

介護認定の際に「よそ行きの自分」になってしまう親がいる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 前回、介護保険の仕組みを正しく理解し、制度がフォローするサービスを利用することで、認知症の高齢者が機嫌よく暮らし、その子どもや家族の負担が軽減されるということを書いた。その前提となるのが認知症の親の要支援、要介護の認定だ。

 認定を受けるためには市区町村の窓口での申請、介護認定調査員の調査、かかりつけ医の意見書などが必要となる。その際に高齢の親を持つ子どもが気をつけなければならないことがある。それはふだん「ボケた、ボケた」という親が、介護認定調査員や医者の前で「よそ行きの自分」になってしまうことだ。日常生活において明らかに認知症の症状を呈していても、イザ、調査、診断のシーンでは、「自分は正常だ」と見せたかったり、あるいは「恥ずかしい」という心理が働くのか、「綻び」を見せないように振る舞ってしまうのだ。

 また脳というのは緊張状態のときは普段より高い能力を示すことがある。これは悪いことではないが、それによって正しい認定が行われなければ、せっかくの介護サービスを受けられなかったり、限定されたりする可能性も生じる。

■普段からヘンな状況やエピソードをメモしておく

 それを避けるためには、子どもは日ごろから「親がヘンだ」と感じたら、そのエピソードや状況をメモしておくことだ。認定調査員や医者に親の情報を伝えて正しい評価を得るようにするべきだ。医者によっては意見書にそこを強調して付記してくれることもある。

 そうした親の心理を物語るエピソードがある。

「母は医者と話すときだけは、なぜか認知症の症状が影を潜める傾向がありました」

 そう語る知人の母親は看護師だった。保健師、国立病院の看護師として働き定年退職したのち、請われて民間病院の看護師としてさらに働き75歳まで現役を貫いたという。80歳を過ぎたころ、「ボケた」と夫とともに医者の診断を受けた。その際に、元看護師としてのギリギリの矜持なのか、「よそ行きの自分」を演じていたというのだ。それでも、夫婦ともども認知症と診断された。週に2回ほどデイサービスに通う生活を続けたが、「子どもに迷惑をかけたくない」と夫婦そろってのグループホーム入居を決めたという。同居していた長男が心臓手術を受けたことも、そうした選択につながったようだ。2人は数年前に90代半ばで相前後して旅立った。「認知症でも、自分のフィナーレに向けた選択には残存していたインテリジェンスが働いたのでしょう」と知人は述懐する。

 ご存じの方も多いと思うが、グループホームとは一定の要支援、要介護の認定を受けた認知症高齢者のための介護施設だ。この施設の特徴は小規模であることだ。最大で9人の「ユニット」単位に分かれ共同生活を行う。認知症の症状が軽度であれば、入居者が配膳や食器の片づけ、洗濯物の整理などを行うケースもある。ただ、医者はもちろん、看護師の常駐は義務付けられておらず、入居者が医療行為を必要とされるような状態になったときには退去しなければならなくなる。最近では、看護師が常駐あるいは定期的に訪問したり、医療機関との提携を図ったりしている施設も増えてきている。

 入居資格は「65歳以上で要支援2、あるいは要介護1以上の認定を受けた人」「65歳未満でも若年性認知症、初老期認知症で同様の認定を受けた人」「施設と同じ市町村に住民票のある人」「集団生活に支障をきたさない人」などとなっている。費用は施設によって差があるが、初期費用、毎月の費用を比較的安く抑えた施設も多い。介護保険サービスをポジティブに考えることが大切だ。

和田秀樹

和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

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