進化する糖尿病治療法

糖尿病になってから逆においしいものを食べる機会が増えた

スパイスのセットで手作りカレー
スパイスのセットで手作りカレー

 都内在住のMさん(55)は、40代後半で糖尿病と診断されました。当初は栄養士の食事指導を厳密に守っていたのですが、もともとは食べることが大好きな性格。外食を楽しめない生活がストレスになり、半年ほどで「これでは長続きしない」と気付いたそうです。

 それ以降は、「食べたいものを食べるけど、糖尿病であることを意識する」ように心掛けるようにしました。

 たとえば、カレーライスや丼、牛丼、チャーハンといった炭水化物が大半を占めるようなメニュー1品を食べるようなことはしない。何でも気軽にオーダーできる便利な世の中にはなりました。Mさんの場合は、カレーライスなどを食べたい時は、自分の希望通りの内容にできるよう、自宅で作ることも多かったそうです。

 カレーなら、市販のルーには小麦粉が入っているので、スパイスのセットを買ってきて、自分で作る。

 ご飯はごく小盛りにし、温野菜やキノコのサラダなども一緒に食卓に並べる。カレーは少なめに、サラダなどは多めにしてトータルでお腹いっぱいになるようにする。

 丼や牛丼、チャーハンも同様に。一方、外食する時は、自宅で作るのが面倒だったり難しかったりするようなものを選ぶ。イタリアンに多人数で行って皿数を多めに注文。パスタももちろん食べますが、みんなで分け合うので、Mさんが食べる量はそれほど多くありません。ピザも同様。

 小料理屋さんも重宝していて、小さめの器の料理がほとんどなので、2~3人で行き、いくつか料理を頼んで、ちょこちょこつまむそうです。みなさんも、少しでも実践していただければと思います。

■炭水化物も脂質もOK

「炭水化物を多めに取らない、揚げ物は控えめにするなどのルールは設けていますが、食べないわけではないのでストレスゼロ。どういう料理に、どういう栄養素が含まれているか、カロリーはどれくらいかが頭に入っているので、無意識に取捨選択できるのもストレスゼロにつながっている。一食一食を大切にするようになり、かえっておいしいものを食べる機会が増えました。“早い、安い”系の店には行かず、安居酒屋のお通しなどは、特に食べたいと思わないので手を付けなくなりましたね」(Mさん)

「糖尿病=厳しい食事制限」と考える方もいますが、「糖尿病だから食べてはいけない」ものはありません。炭水化物も脂質もOKです。炭水化物には、体温を一定に保ったり筋肉を動かしたり心臓や脳などを機能させたりするのに必要なエネルギーをつくり出す役割があります。脂質には、体内でエネルギーをつくるもとになったり、細胞の膜をつくって細胞の“防御壁”になったりする役割があります。どちらも生きていく上で必要な栄養素なので、むしろ取らない方が害。もちろん、量を抑えて取る必要がありますが。

「好きなものを好きなだけ食べられない」ことが苦痛になり、糖尿病治療からドロップアウトしてしまう方もいます。しかし、Mさんのような捉え方もできるのです。要は正しい食の知識を身に付け、食べ方にメリハリをつけること。

 同じ「カレー」であっても、市販のカレールーを使ったカレーは、Mさんが言うように小麦粉が入っていて脂質も多くカロリーが高い。スパイスだけで作ったカレーとは別物です。インド料理屋さんでカレーを食べるにしても、北インドか南インドかでバターや生クリームの使用量が異なるでしょう。その店で何を選ぶかによっても、変わってきます。

 さらに、現在糖尿病でなくても、好きなものを好きなだけ食べる生活を続けていれば、いずれはなんらかの生活習慣病を発症するでしょうから、「適切においしく食べる」習慣を身に付けるのは、ある年齢以上は必須なのです。

 正しい食の知識といえば、糖尿病や予備群の方によく見られる行為があります。それは、果物はビタミンが豊富だからと、オレンジジュースなどを日常的に飲んでいたり、コーラや砂糖入り缶コーヒーを“摂取しているもの”としてカウントしていなかったり。いずれも糖分の取り過ぎですので、やめてほしい。糖尿病の方にオレンジジュースやコーラをお勧めするのは、低血糖を起こしている時だけです。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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