Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

小笠原早紀さんは早期復帰 舌がんは口内炎放置が要因にも

小笠原早紀さん(本人のツイッターから)
小笠原早紀さん(本人のツイッターから)

「病気も順調に回復し、復帰させていただくことになりました!」と9日にツイッターで報告したのは、声優の小笠原早紀さん。病気とは、ステージ1の舌がんで、4月上旬に診断され、治療に励んでいたようです。ステージ1の早期発見で、早期復帰できたのは何よりでしょう。

 舌がんというと、タレントの堀ちえみさんを思い浮かべる人が多いでしょう。堀さんは今年2月、11時間に及ぶ手術で舌の6割を切除。元気で笑顔が印象的な女性ですが、「手術直後は、壮絶な痛み、苦しみ、辛さに、心が折れてしまいそうになりました」とブログにつづっています。

 早期発見できるかできないかで、これほど状況が変わってくるのです。そんな人生を分ける違いは何かといえば、ひとつは口内炎です。堀さんは昨年夏ごろに舌の裏側に小さな口内炎ができたそうですが、ありふれた症状に放置してしまったことがここまで悪化させてしまった要因でしょう。

 舌がんを含む口腔がんのリスクは飲酒と喫煙のほか、虫歯で欠けた歯や合わない義歯・入れ歯、悪い歯並びなどを放置したことによる慢性的な刺激がよくありません。その刺激が口内炎を起こして、平均10年という長い期間を経てがん化するのです。

 口内炎はせいぜい10日で治ります。2週間以上続くときは舌がんを疑って、大きな病院の耳鼻科を受診するのが無難。口腔がんは、頭頚部がんに含まれるため、耳鼻科が専門に扱うのです。

 舌がんは、専門医が診れば比較的容易に診断がつきますが、一般の歯科医は舌がんなど口腔がんの知識に乏しく、誤診されることもあります。堀さんも、かかりつけの歯科医に見逃されています。歯科にかかるなら、口腔がんの治療に詳しい口腔外科がベターです。

 舌がんは、舌の両脇にできることが多く、先端や中央の表面はまれ。舌を突き出し、親指と人さし指で舌の両側を触ってみるとセルフチェックになります。1カ月に1回触れてみて、硬いものを感じたらすぐに受診しましょう。舌がんは、乳がんと同様に自分で見つけられるがんです。

 そうやって早期に見つけることができたら、ラッキーでしょう。部分切除なら、術後の食べにくさやしゃべりにくさがあっても体の負担は少ないですし、何より切らずに済む放射線療法が可能です。

■セックス後は歯磨きとうがいで予防

 舌に放射線を出す針を刺したりする治療法の小線源療法がそれ。舌の機能が保たれるので、生活の質が損なわれることがありません。これはとても大きな魅力です。

 手術や放射線治療の後は、治療部位が硬くなって動きにくくなったり、突っ張ったりします。傷口の状態が落ち着いたらすぐにストレッチを始めること。小笠原さんが語っている「リハビリ」とは、恐らくストレッチのことでしょう。“痛気持ちいい”くらいの強さで続けるのがコツです。

 舌の奥にできる舌根がんは中咽頭がんに属し、中咽頭がんの6割がオーラルセックスによるHPV感染が原因で、舌がんも1割がHPV感染が原因といわれます。セックスの後の歯磨きやうがいは、口腔がんの予防になるのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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