手足のしびれや吐き気が続く…診断が難しい難病の薬が発売

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「30数年前、大学でこの病気に遭遇した時は、こういう薬がでることは考えられなかった」

 こう話すのは、長崎国際大学薬学部アミロイドーシス病態解析学分野教授で、熊本大学名誉教授の安東由喜雄医師。今月9日、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの新たな治療薬が発売されたのを受けてのコメントだ。

 多くの人が、「トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー」という病名について初めて耳にするのではないか? 病名の中にある「アミロイド」とは、特定の構造を持つ水に溶けにくいタンパク質のこと。この病気は、全身の組織や臓器にアミロイドが蓄積して様々な症状が現れる。

 原因は常染色体に存在する、ある遺伝子の変異が原因で、両親のどちらかに遺伝子変異があれば、50%の確率で受け継がれ、発症する可能性がある。ポルトガル、スウェーデン、日本(特に熊本県、長野県、石川県)に患者が集積していることが知られるが、集積地ではない場所での発症例も報告されており、また、家族歴が明確でない患者もいるという。さらに、遺伝子変異が受け継がれても、必ず発症するとは限らない。

「たとえば、スウェーデンでは11%しか発症しません。一方、日本では90%以上発症しますし、高齢になって発症する人もいます」(安東医師)

 この病気は認知度の低さもさることながら、多様な症状が見られ、症状の現われ方は患者によって違う。病気特有の症状というものがなく、治療までに時間がかかるばかりか、ほかの病気と混同されて見逃され、適切案治療がなされていないケースも少なくない。一般的には、手足のしびれ感、起立性低血圧や排尿障害、うっ血性心不全や不整脈、心肥大、吐き気や下痢などの消化管症状、タンパク質や浮腫、視力低下など。進行すると、徐々に歩けなくなり、車イスや寝たきりの生活になる。未治療であれば発症からの平均余命は約10年とも言われている。

 今回発売された薬は、遺伝子発現抑制という細胞内の自然なプロセスRNAiを応用した日本国内初の治療薬。従来の薬とは作用機序が異なるため、新たな選択肢が増えたことになる。

「希少疾患であるこの病気が、今後“大きな疾患”になるには2つのステップが必要です。それは、研究者がいる、そして治療薬がある。治療薬があるとこの病気が発見される患者が増えてくる。これまでは〝よく分からない疾患〟として亡くなっていた人もいる。今回の治療薬が発売される意味は大きい」(安東医師)

 自分とはまったく縁のない病気と考えることなかれ。「知る」ことは、病名が付かずさまざまな不調に苦しんでいる人の、その「理由」が分かることにつながる可能性があるのだ。

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