進化する糖尿病治療法

60代まではカロリー制限 それ以降は塩分を抑える

60代まではカロリー制限
60代まではカロリー制限(C)PIXTA

 食欲の秋。おいしいものがたくさん登場し、特に食べることが好きな方にとっては、楽しい季節です。

 しかし、そのためにカロリー制限に頭を悩ませている方もいるかもしれませんね。ところで、そもそもカロリー制限って必要なのでしょうか?

 農林水産省が定める1日に必要なエネルギー量は、デスクワーク中心で座っていることがほとんどである男性の場合2200プラスマイナス200キロカロリー、女性の場合1400~2000キロカロリーが目安です。座り仕事が中心ですが、軽い運動や散歩などをする方なら、男性2400~3000キロカロリー、女性2200プラスマイナス200キロカロリーが目安です。

 糖尿病などの生活習慣病を抱えていない、またはダイエットに真剣に取り組むほどでなければ、日常的な生活で、厳密にカロリー計算をしている方はほとんどいないでしょう。いえ、糖尿病の方などでもそうかもしれませんね。大事なのは、おおよその知識でいいので、「これを食べたらこれくらいのカロリーだな」と知っておくことです。

 たとえば、お昼にメロンパンかおにぎりか、どちらかを選ぶとします。メロンパンは思っている以上にカロリーが高いんです。それを知っていたら、「1個食べて同じ満足度なら、おにぎりを選ぼうかな」「どうしてもメロンパンを食べたい。だから、ほかはカロリー低めのものにしよう」などと調整できるでしょう。食事の中には、見るからにカロリーが高いもの、逆に、見た目ではそうは思えないけど実はカロリーが高いものがあります。その見分けはできるようになり、食の選択に役立ててほしい。

 研究でも、過剰にカロリーを取らない生活、つまりカロリー制限をした生活の方が若さを保て、長生きできるという結果が出ています。過剰なカロリーは血糖、脂質を向上させ、動脈硬化を進行させ、心筋梗塞、脳卒中などのリスクを高めます。

年を取ったら下肢筋力を維持する
年を取ったら下肢筋力を維持する(C)PIXTA
年を取ったらカロリーが多少高くてもタンパク質を多く摂取

 しかし最新の考え方では、すべての方において一律に「カロリー制限が必要、と考えない」というもの。その方の生活、食事の取り方、年代などで変えていくべき。私としては、ざっくりと「60代までは食事のカロリーやバランスを心掛ける。60代を過ぎたらカロリーではなく塩分量を心掛ける」ことが大事だと考えています。

60代より先は、肥満の方を除いて、カロリーを気にせず食べ、筋肉量を落とさないようにしてほしい。特に下肢筋力です。筋肉量の維持は、サルコペニア(加齢に伴い起こる骨格筋量と骨格筋力の低下)や低栄養の予防になり、健康寿命を延ばします。筋肉量が落ちると嚥下障害も起こりやすくなりますし、運動量が減って骨粗しょう症も起こしやすくなります。

60代を超えたら、カロリーが多少高くなっても、タンパク質が豊富に取れる食事の方がいい。食べられる量が減って痩せていくような方は、豚肉を食べるならしゃぶしゃぶよりポークソテーやトンカツのような、カロリーが高いものの方がいいのです。

しかし、先ほど述べたように、60代を超えると塩分の摂取量が過剰にならないように、特に気を配るべきです。筋力維持には、食事面ではタンパク質摂取が重要になります。ところが腎臓が悪いと、タンパク質の摂取には制限がかかります。腎臓は、高血圧が長く続くと機能が落ちやすい。高齢者には腎機能が落ちている人が少なくありません。

そして、塩分量の過剰摂取は血圧上昇を招きやすくする。長年の習慣で濃い味に慣れている方や、加齢で味覚が落ち無意識に味付けの濃いめのものを好むようになっている方がいます。レモンなど柑橘類の利用、スパイスやコショウの利用、調理方法の工夫で早い段階で塩分量を減らすようにしてください。

60代より前の若い年代、特に50代のうちに、ぜひとも検査を受けて、80代くらいまで元気でいられる臓器かチェックしてほしいのが、腎臓、心臓、血管の動脈硬化度。腎臓は相当悪くならないと自覚症状がないので、自分が感じる「異常なし」を信用してはいけません。採血でクレアチンあるいは、eGFRあるいは尿タンパク/アルブミンで比較的簡単に確認できます。心臓と血管の動脈硬化度は、中でも喫煙習慣がある人は、心機能の検査は必須です。50代で検査をし、たばこをやめる、食生活を変えるなどに取り組めば、80代まで元気でいられる率は高まるのです。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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