遺伝子治療薬はここまで来ている

「タンパク質=製品」が作られる前にアプローチして治療

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 遺伝子治療薬を知るためには、「遺伝子」とは何かを知る必要があります。「DNA」は個人を特徴づける説明書、「遺伝子」は作業指示書で、遺伝子をもとに作られた「タンパク質」が生命活動の源となる製品(部品)に当たります。

 このDNAからタンパク質ができるまでの流れは「セントラルドグマ」と呼ばれていて、その過程のどこかが1カ所でも破綻すると、病気になってしまいます。セントラルドグマの破綻が、受精卵やかなり早い段階で起こった場合は先天性疾患に、年を重ねてから起こった場合は後天的な疾患=一般的な病気になります。

 生命体は、進化の過程で「セントラルドグマが破綻した細胞は自ら死ぬ」という防御機構を獲得していて、病気から体を守るシステムが備わっています。しかし、この防御機構が働かずにタンパク質の不良品がたくさん作られると、生命活動のバランスが崩れる=病気になるのです。

 遺伝子治療は、遺伝子またはDNAを書き換えたり補ったりすることで、不良品のタンパク質を生み出していた状況から、正常な(合格品の)タンパク質を作れるように導いて病気を治す治療法です。従来の治療は、不良品タンパク質の働きを抑えるか、正常なタンパク質を補うことで生命の機能を正常化するものでした。遺伝子治療は、体の説明書や指示書という製品が作られる前にアプローチして治療します。この点が画期的なのです。

「そんなことなら、もっと早く遺伝子治療薬が開発されればよかったのに」と思う方も多いかもしれませんが、それには技術的に難しいところがいくつもありました。近年の医療における遺伝子研究の進歩と、新しい製剤開発研究の進歩によって、ようやく遺伝子治療薬を治療に使うことができるようになってきたのです。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

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